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Stories of fate


黄泉の肖像

黄泉の肖像 (氷解) 25

「随分、自分勝手で乱暴なお話しだと思われるでしょう?」

 彼は言った。俺はためらいもなく頷いた。

「思いますね」
「ですが、考えてみてください。サキは、これまでずっと同じ姿で少女の心を持ったまま今まできてるんです。私が早乙女の今度こそ最後の当主として彼女の世話を引き継いだとして、誰が救われますか? 今さら私が彼女を‘家族’として扱えますか? 私の何も知らない妻や子に、彼女を何と言って紹介しますか? しかも、彼女はこの先も変わらない姿で存在し続けるんですよ?」

 言ってることは腹の立つ責任逃れでしかないのに、直義の声は終始穏やかで、何故か俺は言葉を挟めなかった。

「早乙女の人間が彼女をただの‘サキ’という少女として扱えないのは、彼女は我々にとって初代の娘であり、直接の先祖であるからです。ですから、疎ましく思うというより、もっと侵し難い、気軽に触れられない領域に彼女は初めからいる訳です。そういう人間がずっとずっと彼女のそばにいても、サキも、我々も進むことは出来ません。ですから、早乙女とはまったく関係のない人間に託してみたかったのです。これは本当です。何かのきっかけで成長を止めるスイッチが入ってしまったのなら、別の環境、別の刺激に寄って…、そして、これは私の希望的予測に過ぎませんが、彼女が‘恋’をすることで、普通の人間に戻れるのではないかと考えたんです」

 嘘をついているようには見えなかった。それに、確かにこういう、歴史のある家柄では先祖というものは一般の人間よりも重い深い意味を持つ存在であろうと思える。そこに位置するサキという少女。確かに、疎ましく思うのと同時に、崇拝の念がないとも言い切れないと思った。

「…原因は、やはりまったく分からないんですか?」
「分かりません。そもそも、調べたことがありません。ですが、当時、爵位をいただいて家を興した初代の時代を考えれば、当時の女児は政略の道具としての価値しかなかった。つまり、サキが大人になりたくない要素はあった訳です。それが医学的にどう作用するのか、作用することなどあり得るのか分かりませんが、私があなたに託してみたいと考えに至った理由はそこにもあります」

 医者が、古典的、と表現したことの重い意味をやっと知った。その意味は分からないにしても、サキは、ほんの少し、現代人とどこか身体が違うのかも知れない。

「それにしても、こんなに面倒なことを仕組む必要があったんですか? 誰かに事情を話して、お願いしてみるとか」
「いきなり、こんな話しをされて、あなただったら信じますか?」
「…いえ」
「それに、医療機関に事情を知られたら、彼女は涕の良いモルモットにされる。そして、同じ血を持つかも知れない我々は世間の好奇の目にさらされることになる。…それだけは、どうしても避けたかったんです」

 直義は俺をじっと見つめ、そして丁寧に頭をさげた。

「改めて、お願いです。サキをお預かりいただけませんか?」
 

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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ホラー・恋愛

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