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Stories of fate


蒼い月

蒼い月 3

 それが、つい昨日のことのように思い出されるのは、きっと明日が満月だからだろう。月は次第に丸みを帯びて、てらてらと光り輝いている。

 しかし、確か天気予報では明日は一日雨だった。
 我が家は古い家なので、そういう年中行事を大事にする。

 明日も、月が出ていなくても、お供え物は綺麗に飾るんだろうな、と思う。そして、満月を見上げる度に、不意に時間が巻き戻って、ルナが隣にいたあの時間を思い出す。

 今年でもう3回目だろうか。大学3年。あと1年で卒業というそろそろ将来を真面目に決定しなければならない時期だ。

 そして、夏生まれの俺は、もう21歳になっていた。

 おばあちゃんは、もう大分年老いて、ほとんど家の中に引きこもっている。出かけよう、という誘いのほとんどを断るようになってしまった。それでも、俺や姉が部屋を訪ねると嬉しそうに顔をほころばせて、俺らが幼い頃よく聞かされていた昔話をしてくれる。

 その中に、ふと引っ掛かるものがあって、俺は「え…?」と聞き返したことがあった。

 月見の支度をおばあちゃんに確認しに部屋を訪ねたときだった。夕食も済んで、俺はうっとうしい空を思って、月なんかどうせ出ないのに…と半分投げやりな気分だった。

 おばあちゃんの部屋は、俺が幼い頃からまったく変わらず、写真や本棚が綺麗に整理されていて、小さなテーブルと座椅子がいくつか置かれてあり、おばあちゃんはその小さな空間で本を読んだりテレビを観たり、訪ねてくる友達とお茶を飲んだりしている。

 なんで、そんな話になったのか。確か、月と太陽の対比の話しになっていたような気がする。

「邪馬台国の卑弥呼さまはな、日の巫女なんじゃ。卑弥呼という字を当てはめたのは日本を見下していた大国だ。そして、かぐや姫は月の巫女だったんじゃなぁ。」

 卑弥呼の名前の漢字については、確か、そんな話しを聞いたことがあった。まだ発展途上の日本の女王としてバカにされていたんだと。そのまま歴史に残すなよ、という気もしたが、まぁ、もう定着していまっているんだから仕方がない。
 しかし、どっからかぐや姫が出て来た?

「おばあちゃん、かぐや姫って本当にいたの?」
「さぁなぁ・・・。」

 おばあちゃんはにこにこ笑う。

「日巫女さまと月巫女さまはそれぞれ治めている地があって、あるとき、何かの争いに巻き込まれて、月巫女さまは天へ還ったと言われとるなぁ。」
「それ、本当?」

 ふふふ、とおばあちゃんは楽しそうだった。

「月巫女さまの好い人が、戦いで倒れてそれまでのことを忘れてしまった。そして、倒れているその男を助けたのが日巫女さまの御付の女官だった。それで、月巫女さまはその男を待って、焦がれて、死んでしまったとも言われとる。」

 どきん、と心臓が鳴った。なんだか、ルナの話とどこか似てないか?どっちも勝手なファンタジーには違いないが。実際、そんな変則バージョンを俺は今まで聞いたことがない。

 あのあと、俺はなんとなく幼児向けの『かぐや姫』を図書館で読んでみた。そして、思い出していた。その大筋を。なんだ、他愛ない昔話だ、と思ってすぐに忘れてしまっていた。彼女の言うような要素なんて微塵も感じられなかったのだ。

 しかし、そうやって昔話として整えられるまでに、物語はきっと数々の変容を遂げて、ある程度物語として理解される形に纏められているのだろう。

 そのstoryが生まれるまでに紆余曲折した過程だって、本当はあったに違いない。
 或いは、本来の伝承を、誰かが故意に歪めたのか。

 ルナが‘かぐや姫’にこだわったのは、本当に彼女には何かどこに通じるものがあったのかも知れない、なんて考えすぎだろうか。

「ねぇ、おばあちゃん、かぐや姫って月の都から追放されて来たんだろ?どうしてだと思う?」
「月の都…とは、月がおわす東の国じゃったんかね。何か争いがあって、逃げてきたのかも知れんの。」
「じゃあさ、かぐや姫が恋してた男って?」
「さぁなぁ…。守護の者だったんじゃろかね。」

 なんだか、はぐらかされてばかり…というより、なんとなく、おばあちゃんは俺をからかっているだけのような気もしてきた。

「そんな伝承、本当にあるの?」

 おばあちゃんは、笑うだけで、もう答えてくれなかった。
 

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~ Comment ~


こんにちは!
こちらを読み始めてます

すっごい好み☆
こういう感じの神話伝承と現代と、あと家族の絡みとかのはなしってチョー好みです!

また遊びに来ますねv
#1757[2012/02/29 13:41]  磯崎愛  URL 

磯崎愛さまへ

磯崎愛さん、

ありがとうございます(^^)

> すっごい好み☆
> こういう感じの神話伝承と現代と、あと家族の絡みとかのはなしってチョー好みです!

↑↑↑あああ、でも、これ、そういう感じなのはここまでです~~~
しかも、これって、狙った展開とはまったく違ってしまって、「ええええっ???」とfateが一番びっくりして終わってしまいました(--;

これ、fateが描いたんじゃないかも…
#1764[2012/03/01 07:06]  fate  URL 

磯崎愛さまへ

磯崎さん、

誤字のご指摘ありがとうございました~~~(^^;
すみません、未だによくやらかします。
反省・・・

#1772[2012/03/01 12:23]  fate  URL 

竹取物語

ずいぶんと古い時代に書かれた、日本最古とまではいかないかもしれないけど、それに近いファンタジーですよね。

かぐや姫って好きな日本人が多いんでしょうね。
コマーシャルにだって出てきますものね。

子ども向けの「かぐや姫」を読んだ程度で、あまりよくは知らないのですが、私もこういう感じのストーリィは好きです。

なんだか文体からして、いつものfateさんの物語とはちょっとちがった感じがしますね。

日巫女、月巫女、そういう世界はやっぱりfateさんワールドかなとも思いますが。

八月はあまり更新をされてなかったようで、体調がよろしくないのかな? 暑さに弱いとおっしゃってたせいかな? と思っていたのですが、また復活されてますよね。
安心しました。

#2299[2012/08/10 00:47]  あかね  URL 

Re: 竹取物語

あかねさん、

かぐや姫とか、人魚姫とか、どうもfateはそういう古典的ファンタジーが好きらしいです(^^;
昔話とか神話とかって実はいろんなものがこめられた伝承とか警告、予言とかに近いんだろうな。とか。

> なんだか文体からして、いつものfateさんの物語とはちょっとちがった感じがしますね。

↑↑↑フフフ。
さすがあかねさん。
それはその内明かされます。

ご心配ありがとうございますっ!(^^)
体調はそんな変わらず、いつも通り変です。(いや、体調が変という意味ではないかも知れない・・・)
夏はアメーバになってぐったりしてますが、その内、分裂してfate自身が「ぎゃあああっ」言ってるかも知れません(ーー;
その場合は速やかに退治してもらわないと、増えて困ります。
(いや、あんまり本気にしないでください・・・(^^;)
#2300[2012/08/10 13:18]  fate  URL 














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