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Stories of fate


黄泉の肖像

黄泉の肖像 (早乙女家) 21

「イテテ…」

 という自分の声で、俺は正気を取り戻す。とりあえず、頭が痛い。
 頭を触ろうとしたのに、腕が動かない。

 あれれ??? と思って目を開けると、そこは見たこともないような、立派な拷問部屋だった。
 というのは冗談だが、そういうことを彷彿とさせるような事態だったのだ。

 部屋は薄暗くて、内装はよく見えなかったが、地下牢の中ではないことだけは確かだった。窓はあったが、閉じられていて、照明が半分も点いていない状況だったのだ。そして、俺の身体は椅子に固定されて縛られていて、目の前には知った顔、早乙女直義と、もう一人、ロープとナイフを持った若い男がいた。あまり雰囲気が良くないこの男は、依頼人の身内ではないようだ。それほど体格はがっしりしていないが、変に研ぎ澄まされた空気を抱いている。まず、目がヤバイ。

「…いったい、どういうことです?」

 俺は呻くように言った。

「それはこちらの台詞ですね、探偵さん? 報酬が足りなかったということですかね?」
「報酬…? ああ。…いえ、そんなお話しでは…」

 所長から受け取った封筒を思い出して俺は言った。そういえば、まだ中身を確かめていない。いくら入ってるんだ?

「ああ、期待はずれでしたね。まったく、あなた方ときたら、人の弱みを握ってゆすることしか考えられないんですかね、呆れますね。」

 直義は、言いながらゆっくりと向かいのソファに腰を下ろす。その声には本気で失望が感じられた。若い男は俺の目の前に突っ立ったままだ。

「何の話しをされていらっしゃるんですか? 俺は、ただ、あの子のことを…」
「あの子!」

 吐き捨てるように、彼は言った。薄暗い中でも、彼の目が光ったことだけが感じられる。

「どこかに公表でもしますか? 一族の恥を! 呪われた血の証を!」
「…何のことですか?」
「今さら、どうしてトボけるんです? それとも、…どこまで知ったんですか?」

 つい先日、事務所を訪れ、所長と話していた温厚そうな男性と同一人物とは思えなかった。彼の瞳にはまるで狂気の色が揺れていた。

「ですから、いったい何をおっしゃっているんです?」

 直義は、若い男に目で合図して、俺が抱えて持ってきた絵を目の前に置かせる。

「では、これは何のために持ってきたんですか?」
「ああ、それは」

 俺は、どこか腑に落ちないものを感じながらも言葉を探す。何が彼をそんなに怯えさせているんだろう? そう、彼は怯えているのだ。先程から彼の視線はどこか落ち着かない。絶対優位に立っている者の目ではなかった。

「その絵のご夫婦と子ども達とおぼしき肖像は、早乙女家のご先祖でしょう? そこに描かれている絵とサキがそっくりであるっていうことは…」

 そこまで言ったとき、彼の目には明らかに動揺が走った。

「俺は…、つまり、彼女は早乙女の親戚筋の…或いはもっと近しい血の子だろうと感じたんです。つまり、あなたのご親戚に違いないでしょう? あなた方は、彼女に対して責任があると俺は思うんですが…」

 言い終わると、直義の表情には疑いの色が浮かんだ。

「…それで?」
「それで…。はい、ですから、彼女を…その、然るべき待遇で早乙女の一員として迎えていただけないかと…」

 直義は、俺の顔をじっと見つめたまましばらく何も言わなかった。奇妙な沈黙だった。俺は、そんなに不当な要求をしているんだろうか? そして、はっと気付く。

「あ、所長からお預かりしたお金は、まだ手付かずでありますので、サキを引き取ってくださるなら、そっくりそのままお返しいたします!」
「…本当にそんなことを言いにわざわざ来たのかね?」

 真っ直ぐに見据えられ、俺はちょっと言いよどんで、口を開いた。

「それは、半分…」
「残りは?」
「…あの、‘ゆきお’さんとは誰ですか? あなたならご存知かと思いまして」

 すると、彼は怪訝そうな表情を浮かべた。若い男と一瞬、視線を見交わし、彼も不思議そうな顔で首を振る。

「何のことかね?」
「え? …あれ? 本当にご存知ないんですか?」
「征夫とは、君の名前じゃないのか?」
「は? ええ、そうですが、俺のことではなくて、ええと、サキちゃん…彼女が知っている、…推測ですが、恐らく今まで彼女の世話をしてくれていたんじゃないかと思われる‘ゆきお’さんという方のことです」
「…そんな者はいない」
「いない? では、彼女はあの屋敷のご当主が亡くなってから、どうやって一人で生きていたんですか?」

 直義は、若い男に、出てくれ、と合図したようだ。彼は無言で扉へ向かい、扉の前で、照明を調節して出て行った。突然、部屋全体が明るくなり、俺は眩しさに一瞬顔をしかめる。

「君は、そんなことを言いにわざわざ私を訪ねて来たと本気で言うのか?」

 直義は立ち上がって、俺の目の前に立て掛けられた絵を手に持った。そして、それをいまいましそうに見つめた後、その絵をひっくり返し、俺に絵の裏を見せた。何を見せたいのだろう? と俺は黄ばんで薄汚れた絵の裏を見つめた。左下の隅に名前が書いてある。製作者のサインではない。そうか、肖像画のモデルとなった主の名前だろう。

 早乙女玄蔵。ご夫婦の旦那様の方であろう。早乙女家の初代だろうか? 続いて、マツ子。マツ子? そんな、「マツ」とか「トメ」「ヨネ」なんてのはばあさんの名前だろうがっ。こんな若い女性には相応しくないんじゃ…あ、そうか。ばあさんだって、若い頃はあったんだ。当時はごく普通の名前だったんだろう。そんなことを思い、最後に子どもの名前らしい並んだ二つの名前を読む。

 サキ。富彦。
 一姫二太郎か。良い具合だ。つまり、次期党首は弟だな。
 …ん?
 俺は、ふと戻って姉の名前を読み直す。

 サキ。
 サキ???
 サキって、サキ?
 えっ??? …名前も同じ? というより…まさか、本人???

「えええっ???」

 俺がすっとんきょうな声を上げるのを、直義は半ば呆れた表情で見つめていた。


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うむむむ。事態が把握できん(^^;)

謎解きは帰って来てからゆっくり読もう(^^)
#753[2011/12/01 07:51]  ポール・ブリッツ  URL  [Edit]

ポール・ブリッツさまへ

ポール・ブリッツさん、

そのまんまです~
っていうか、結局原作者さまには「謎のまま逃げた気がしないでもないですが」とおっしゃられたそのままです(^^;
まぁ、でも、どう落としたのかご覧ください。
わはは~

#755[2011/12/01 08:13]  fate  URL 

人魚の肉でしたね

原作では人魚の肉を食べさせて不死身にして……というふうでしたよね。
でも、もしかしたらそれを語っている人物が嘘をついているのかもしれない、と、館長さんは言っておられましたっけ。

登場人物たちが本当のことを言っていると信じてかかるのは純情すぎる、とどこかの映画監督が言ってましたが、普通は信じますよね。

私の推理が当たっているのかどうか、いよいよフィナーレ、楽しみにしています。
#1051[2011/12/23 09:32]  あかね  URL 

Re: 人魚の肉でしたね

あかねさん、

> 私の推理が当たっているのかどうか、いよいよフィナーレ、楽しみにしています。

↑↑↑…ええと。実は推理も何もなくて、ほんとにそのままです(^^;
それに、館長みたいに不可解ではないですので(fateが(^^;)あんまり深読みは必要ないかと思われます~

これは、あれこれ考えていただく価値があんまりありませんので。
はははは…

#1053[2011/12/23 18:46]  fate  URL 














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