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Stories of fate


黄泉の肖像

黄泉の肖像 (ゆきお) 7

 食事を終えて外へ出ると、なんだか、もうどうでも良くなってきた。彼女のことは警察がなんとかしてくれるだろうし、俺が中途半端に関わるべきことじゃない。

 明日からまた浮気調査の仕事が再開される。
 もう、忘れよう。

 まだ明るい西の空を見上げ、俺は頭を振るう。

 そのとき、ふと、そういえば、俺を調べていたのは誰だったのだろう? と店長の言葉が蘇る。俺の素性というよりは、現在の俺の状態を聞きたがっているようだった。つまり、本気で浮気調査対象だったのか? 最近、何か疑われるような女性と出会っただろうか?

 仕事中は、確かに隠れ蓑的に、女性に声を掛けることもあった。その相手を写真に撮る振りをして背後の二人にピントを合わせたり、など。

 しかし、お互い名前を交換した相手はいなかったし、大抵、一度きりの出会いだ。どう考えても思い浮かぶ相手はいない。

 ある日突然、裁判所から呼び出しが来たり、相手方の弁護士が事務所に押しかけてきたりしないだろうな…。
 なんだか、俺はおもしろくなかった。
 チクショー! 聞きたいことがあるなら、堂々と俺を訪ねて来やがれっ

 普段、俺もやっている仕事なのに、他人に身の周りをウロチョロされるのは気に入らなかった。しかも、つまりは尾行されたこともあったってことだよな? 気づけよ、俺! 調査対象にされているなんて、微塵も考えたことがなかったわ!

 そのとき不意に着信音が鳴り、俺は飛び上がりそうになった。

「だ…、誰だ?」

 見ると、つい先ほどの番号だ。つまりは病院からだ。

「…はい?」
「あの…稲賀さんですか?」
「ええ」
「何度もまことに恐縮なんですが…、やはり、こちらに来ていただく訳には参りませんか?」

 はぁ…と意図せず息が漏れた。ほっとしたのと煩わしいのとが半々だった。

「いったい、何がどうしたんですか?」
「ゆきおさん、というのがどなたを指すのか分からないんですが、その方がいらっしゃらないと治療も何も出来ないのですよ」
「暴れるんですか?」
「暴れるのではなくて、自分を傷つけようとするんです。」
「安定剤をうつとか、何か出来ないんですか?」
「近づけません」
「麻酔銃でも…」

 言いかけて、相手の冷ややかな空気に俺はさすがに口をつぐんだ。

「分かりました。今から伺います。ですが、俺が求める相手であるとは限りませんよ?」

 明らかに俺ではないだろうとは思った。だいたい、俺を名前で呼ぶ相手なんて限られている。家族と、親戚、そんなものだ。大の大人を捕まえて名前を呼ぶ人間の方が珍しい。

 その少女が求めるゆきおとは、誰だろう?
 依頼人…は、ええと、確か早乙女直義(さおとめただよし)。違うな。所長は、…問題外。あの屋敷の主人はもっと時代がかった名前だった。後は…。いや、その他、関係ありそうな相手は病院でも警察でも探しつくしたのだろう。

 つまり、…誰もいないじゃね~か。

 なんだか、行った途端、捕まえられて「ほら、ゆきおさんを連れてきました! これで良いですね?」と人身御供にされそうな予感がして、俺は既にゲンナリしていた。
 

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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ホラー・恋愛

~ Comment ~


ゆきお

漢字がまったくちがうので、まったくちがうのですが、ゆきお……複雑。

いえ、それはいいのですけどね、そういえばかつまさんの作品でも、地下牢のお話を読ませていただきました。
あれはこう、静かな哀しみが漂うストーリィでしたね。

もとは館長さんの作品ですか?
あの方の作品は「ピカソ」。やっぱりfateさんは上手に表現なさいますよね。

こちら、ホラーなんですよね。
軽妙でコミカルなタッチなのは変わらず、でも、徐々にホラーになっていくというのもいい手法なのではないでしょうか。
#904[2011/12/13 09:54]  あかね  URL 

Re: ゆきお

あかねさん、

> 漢字がまったくちがうので、まったくちがうのですが、ゆきお……複雑。

↑↑↑おわおおおぅっ!!
そういえば、そうでした~っ
いや、何にも考えておりませんでしたわ~
幸生くんとはまったく関係ないですから~(^^;

それから、うっひゃぁぁぁっ
ごめんんさい、ごめんんさいっ
これ、ホラーですが、ホラーじゃないですっ
最後までコメディで終わってしまい、文中に一言「ホラーだ」と入っているだけです。
(さて、どこでしょう?)

いや、ホラーの予定だったんです。それで、他サイトにホラーで掲載したのですが、最後まで「どこが?」とfateは思ったのですが、ジャンルを変えるのがメンドくて、そのまま放置し、こちらにもそのまま放置しました。

続編を描いたら、少しはホラー色を出してみましょう!!
(ほんとか?(--;)

あ! ちなみに、『閑話休題』にあかねさんがコメントいただいた後に、館長よりあかねさんへのコメントが届いて(?)おりましたので、ご覧になってみてください(^^)

#914[2011/12/14 07:13]  fate  URL 














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