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Stories of fate


黄泉の肖像

黄泉の肖像 (ゆきお) 6

 しかし、なんだか釈然とせず、そして、関わり合いになる決心がなかなかつかず、俺は事務所の近所にあった馴染みの喫茶店へふらりと立ち寄った。

 テーブル席が4人掛けで5つほど、そして夜にはバーに変わるカウンター席が並んでいる。
 店はまだ空いていた。これから会社帰りのサラリーマンやOLや学生で混んでくる、その一歩手前の時間帯なのだろう。

「あら~、征夫ちゃん、ひっさしぶりっ」

 オカマの店長が妙に高い声で迎えてくれる。オカマと言っても派手な化粧をしている訳でもなく、女装する訳でもなく、まぁ中世的な衣装を着て、言葉がヤバイ程度だ。それに、その服のセンスはなかなかのもので、よく若い女の子とどこで買ったとかコーディネイトはこうすれば良いだとか盛り上がっているので、不快な類ではない。
 理解は出来ないが。

「なんで久しぶりなのさ。」
「何言ってるのよ! 一週間、来なかったじゃない」
「一週間…、毎日、店の前を通ってただろうが」
「お店には顔を出してくれなかったわよ!」
「俺だって忙しいこともあるんだよ」
「…浮気してたんでしょ」
「浮気~???」
「そうなんでしょっ」

 店長自らがグラスに水を汲んで、カウンターの前に座った俺の前に、とん、と置いてくれる。バイトの子は奥で調理を手伝っているらしい。

「な、訳あるかっ」
「じゃ、どこで食事してたの?他に良い店、見つけたんでしょ」
「食事? ああ、そういう意味か」

 拗ねて俺を睨みつける店長の意図を掴んで、俺は水を一気に飲み干す。

「コンビニであんぱん買って食ってただけだ。ここの料理が最高だよ」

 半ば本気で俺は言った。店長が雇っている裏方の調理人は、実はけっこう有名なシェフあがりで、一線を退いても料理と関わりたくてこの店でこっそり働いている、という噂を聞いたことがあった。創作料理が大好きで、日替わり定食なんて、本当に日替わりで、同じモノを食べた試しがない。お陰で毎日でも通える店だ。

「本当かしら?」

 言いながらも、店長の口調は幾分和らぎ、笑顔が浮かぶ。ああ、良い顔だな、と思う。女顔ではないが、端正な顔をしている店長は笑うとその笑顔は光を放つ。

「本来なら、料理が、じゃなくてお店がって言って欲しいところだけど、征夫ちゃんにはあまり多くは望まないわ」
「いつもの定食を頼むよ」

 苦笑しながら俺が言うと、は~い、と返事をして彼は奥へオーダーの声を掛けた。そして、そのあと、ふと思い出したように俺の顔を見つめて声を潜めた。

「そういえば、征夫ちゃん、つい数日前、変なことがあったのよ?」
「変なこと?」

 グラスをきゅっきゅっと磨きながら、店長は俺に顔を近づける。

「そう、あんまり見ない顔の男だったけど、征夫ちゃんのことを根掘り葉掘り聞くの。初めは世間話的に応じてたんだけど、途中でなんだか気味悪くなってね。」
「俺のことを?」
「そうなのよ。家はどこだとか、郷里は、とか。家族がいるのかとか…。征夫ちゃん、浮気調査でもされてるんじゃない?」
「俺は、配偶者はいない」

 茫然としながらも、俺は言った。

「じゃあ、何?何か犯罪絡み?」
「…どんな男だったんだ?」
「さあ。…警察…って感じ…? でもなかったかしら。それこそ、ご同業じゃないの?」
「探偵が、何で俺のことを?」

 さあ??? という表情で、店長は肩をすくめてみせる。

 いったい、どういうことだ?
 俺は浮気調査なんてされる覚えはないぞ? 人妻にも手を出したりしていない。

 今、一番、考えられるのは。
 今まで扱った案件での逆恨み的なモノだろうか。離婚訴訟で不利な証拠を握られた俺の依頼主の配偶者とか、弁護士とか。

 しかし、過去のことを今さら蒸し返すような、それほど高額訴訟の依頼人なんていなかった筈だ。
 だが、俺がした調査で不利益を被った人間が確かに過去に何人かはいただろう。

 いたんだろうが、俺は仕事をしたに過ぎないだろうがっ
 反省すべきはテメェの下半身の節操のなさだろうっ

「まぁ、でも、そんなに深く突っ込んだことは聞かれなかったわよ? 他にもあちこちで聞いてまわってたんだろうから、何とも言えないけど、あたしは征夫ちゃんのプライベートは暴露してないから、安心して」

 考え込んでいる俺を心配して、店長はハートマーク付きの満面の笑顔でフォローしてくれている。が、そもそも店長が俺のプライベートなど知る筈はない。

「まぁ…、今のところ、何もないから良いよ。もう来ないとは思うけど、もし、そいつがまた店に来たりしたら教えてくれるかな?」

 俺は水のお代わりをもらいながらお願いした。

「分かったわ」

 店長が微笑み、俺も、今、考えても仕方がないことは思考から追い出すことにした。


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ホラー・恋愛

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