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Stories of fate


Sacrifice(R-18)

Sacrifice 38

 家を出て、まだ一月も経過していなかったのに、もう、ここでは自分は‘客’なのだと羽那は家に戻って感じた。彼女の荷物は処分されたとはいえ清水家に送ってしまっていたし、千鶴が事件を起こして智紀に怪我を負わせてしまったこともあり、既にその家の人間になっている羽那に対して、家族はどこか以前と同じ接し方を出来なくなってしまっていた。

「羽那、ごめんね。ごめんね…っ」

 千鶴は妹を抱きしめて泣き、両親も彼女に対して謝るだけだった。当然、見舞いは受け付けてもらえなかったようで、返された品がそのままあり、それでも、智紀の言葉一つで、彼らは仕事を失わずに済んでいる。千鶴の縁談もそのまま進めてくれるように清水家からわざわざ言付けもあったらしい。

 感情的にはすっきりしないものを抱えていた智紀の両親も、援助の手を引きはしなかったし、今では彼ら高階の家では智紀に対して大きな借りを作ってしまった形だ。

「羽那、あなたが辛く当たられるようなことはないの?大丈夫なの?」

 千鶴や母が何より心配したのはそのことだったが、実際、羽那はその後、清水の家には戻っていないので分からない。それに、もともと不在が多い智紀の両親は羽那に対してもそれほど関心を払わなかったし、篠田はきっと変わらずにいてくれるだろう。

「大丈夫…。」

 羽那は淡く微笑む。いつもの彼女の精一杯の愛情表現として。

 あの日、崇子が病院から戻ると、警察から連絡を受けた両親が、うろたえて出かけるところだった。千鶴もどこか放心したような状態で、警察で何を聞かれても茫然としているだけだったらしい。そして、被害者に事情を聞きに出かけた刑事が持ち帰った情報は、訴えは起こさない、という一言だった。

 傷も大したことはないそうですし、これは個人的な問題です。事件にするようなことではありません。即刻、彼女を家に帰してください。

 智紀が語ったのはそれだけだった。
 被害者が訴えを起こさない限り、事件は成立しない。警察は千鶴を迎えに来た家族に引き渡された。

 報復として、二度と羽那には会わせない、と言われるのではないか、と千鶴は後悔していた。彼女のしたことは、清水の家での羽那の立場を悪くしただけ。妹を更に追いつめただけだった、と。

 しかし、智紀は、彼が退院するまでという限定ではあったが、羽那を帰してくれた。
 千鶴は、羽那を抱きしめて泣くしか、出来ることはなかった。




 当然のことながら、智紀が純粋な好意や善意で訴えを起こさなかった訳ではない。
 そこには周到な狙いがあった。
 合法的に、完全に羽那を手に入れるために。



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[恋愛:エロス:官能小説

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