FC2ブログ

Stories of fate


Sacrifice(R-18)

Sacrifice 35

 病室を出ると、夫人が待っていた。社長は息子の無事を確認して一足先に帰ったのだろう。

「先生…」

 長いすに座っていた彼女は立ち上がった。

「智紀は何を?」
「ええ、羽那さんのことについて、少し。」
「…智紀は、息子は、相手の女性を訴えないと言うんです。」
「…は?」

 一瞬、何の話か分からずに安藤は怪訝そうな表情を浮かべた。

「羽那の姉、千鶴さんでしたか?刺した相手を訴えないと警察の方に言ったんです。ですから、すぐに彼女を釈放してくれ、と。」
「ええ???」

 安藤は意外な話に目を丸くした。

「智紀くんが、自分から?」
「ええ。」
「どうして、また…」

 言い掛けて、安藤は、智紀の言葉を思い出した。

‘俺は、羽那を愛してないと言われました。’
‘羽那の姉に、彼女をどうするつもりなのか?愛していないくせに、って。’

 ・・・そうか。智紀くんが、‘愛’を考えるきっかけになったのは、彼女の言葉が発端だったのだ。
 安藤は、なんとなく分かるような気がした。

 やはり、彼は羽那を深く愛しているのだ。羽那の姉、千鶴が捕まったりしたら、今進行中の彼女の縁談も壊れ、会社のイメージダウンにつながり、もしかしてあの家族にとって致命的な打撃となりかねない。だから、智紀は、千鶴を守ろうとしているのだ。羽那のために。

「こちらとしては、せっかく資金援助をしている会社のお嬢さんですし、羽那の実家でもありますし、だからこそ理不尽さを感じて、恩を仇で返された気分でしたが、智紀は、今回の事件はすべてなかったことにして欲しいと言うんです。」
「…立派ではないですか。」

 夫人は意外そうな表情をして安藤を見つめた。

「そうでしょうか?」
「ええ。そう思います。」

 病院へ戻るついでにお送りしましょうか?と言うと、息子に最後に会ってから帰りますので、と言うので、安藤はそのまま夫人と別れた。

 このまま、すべての人にとって良い潮流が始まればいいと、彼は祈るように思った。


関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png 紺碧の蒼
もくじ  3kaku_s_L.png 真紅の闇
もくじ  3kaku_s_L.png 黄泉の肖像
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 2
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 3
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 4
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 外伝集
もくじ  3kaku_s_L.png 蒼い月
もくじ  3kaku_s_L.png 永遠の刹那
もくじ  3kaku_s_L.png Sunset syndrome
もくじ  3kaku_s_L.png 陰影 2
もくじ  3kaku_s_L.png Horizon(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png Sacrifice(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png 閑話休題
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  ↑記事冒頭へ  
←Sacrifice 34    →Sacrifice 36
*Edit TB(0) | CO(0)
ジャンル:[小説・文学] テーマ:[恋愛:エロス:官能小説

~ Comment ~















管理者にだけ表示を許可する

~ Trackback ~


  ↑記事冒頭へ  
←Sacrifice 34    →Sacrifice 36