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Stories of fate


Sacrifice(R-18)

Sacrifice 32

「智紀くんが刺された?」

 夕方遅くなって、安藤は知らせを受けて仰天する。
 更に、その相手が千鶴と知り、愕然とした。まさか、羽那の姉がそんな行動をするとは、彼はまったく予想していなかった。不覚だった。責任は自分にある、と彼は言葉を失う。

「容態は…」

 連絡をしてきたのは篠田だった。校門前の出来事だったため、学校から連絡が来て、篠田はすぐに智紀が運ばれた病院を訪れた。そして、彼の両親に連絡を入れると共に、安藤にも電話をくれたのだ。

「いえ、命に別状は。手術も終わり、意識もしっかりしております。まずはご連絡をと。」
「…分かりました。ありがとうございます、僕もすぐに向かいます。」

 電話を切った安藤は、羽那に知らせるべきか一瞬迷った。しかし、ようやく元気になってきたばかりの彼女に余計なショックを与えてはいけないと思い直した。何しろ、犯人は彼女の姉だ。

 羽那は3日目くらいから一人で身体を起こして食事が出来るようになり、今は点滴もはずれ、ほとんど日常生活を送れる程度に回復していた。今は静養している状態だ。

「ちょっと、中央病院まで行ってくる。」

 看護師に言い残し、安藤は智紀が運ばれた病院へ向かった。すでに彼の両親が到着しており、安藤は蒼白な顔をしつつも、幾分安堵の表情を浮かべて廊下に立つ二人に頭を下げた。彼らは一旦入院の手続き等のために病室から出てきたものらしい。

「申し訳ございません!」

 清水夫妻は、土下座せんばかりの安藤に、驚いた表情をしていた。

「先生…、何も先生の責任ではありません。どうぞ、顔を上げてください。」
「いえ。千鶴さんがお嬢さんを見舞いにいらしたことを看護師から聞いておりました。そして、彼女に僕は余計なことを言ってしまったかも知れませんし、或いは、説明が足りなかったんだと思います。こんなことになるとは、本当に…なんと申し上げて良いか…。」

 そのとき、二人の刑事が受付に現れ、智紀の容態を確認した。そして、看護師に伴われて夫妻のもとへやってくる。恐らく、智紀とその家族に事情を聞きたいのだろう。
 清水夫妻に挨拶をした後、一人の若い刑事は、安藤を見て「こちらは?」と聞く。

「我が家の主治医です。」

 清水社長が答える。

「今日はどうしてまた?」

 夫人が、苦笑しながら簡単な経過を説明する。そうですか、と彼は安藤をちらりと見つめる。

「あの、ご子息にお話をうかがっても?」
「…はい。」

 夫妻と刑事二人は病室へ入って行った。安藤は病室前の廊下に残され、篠田が智紀の着替えなどを持ってやってくる姿を玄関先に見かける。

「ああ、先生。わざわざすみません。」

 智紀の無事が確認され、篠田は大分落ち着いていた。

「篠田さん、ご連絡ありがとうございます。…本当に、力不足でこんな事態に至ってしまい…お詫びの言葉もありません。」
「こんなこと、先生じゃなくても予想などつきませんよ。」

 篠田は穏やかに微笑む。

「…智紀くんの傷の具合は…?」
「はい、私は医学的なことはよく分かりませんが、いずれ、臓器には損傷はないということですし、刺した刃物がなかなか切れ味の悪いナイフだったようで、見た目の出血の割には傷は浅く、腹膜までも達してはいなかったということらしいです。」
「それは良かった…。」

 二人が話しているところに、看護師が声を掛けてきた。

「あの、安藤…先生でいらっしゃいますか?」
「はい。」
「病院からお電話が入っております。」
「私にですか?」
「はい。」

 怪訝に思いながら、安藤は篠田に一礼して彼女に付いて行く。受付で受話器を受け取り、はい?と電話に出ると、羽那の担当の看護師からだった。

「あの、先生。ご家族だとおっしゃる方がお見えになって、羽那さんにお会いしたいとのことですが、いかがいたしましょうか?」
「…家族?高階…さん?」
「はい、この間の方とは違う女性ですが、お姉さまだとおっしゃっております。」
「…ちょっと代わってくれる?」
「分かりました。」

 ほどなくして、もしもし、と若い女性の声が聞こえた。羽那に姉が二人いることは聞いていた。確か、名前は・・・。

「ええと、崇子…さんですか?」
「はい。」
「今日はまたどうして突然いらっしゃったんですか?」
「…あの、姉が…もう一人の姉が、随分前に、羽那に…妹に、会いに行くと言って出かけたきり戻ってこないものですから、こちらに来ているのかと。」

 まだ、何も知らないのだと安藤は一瞬、言葉を失った。

「千鶴さんはしばらく戻れないと思います。一旦、ご自宅へお帰りください、恐らくご自宅の方へ連絡が行ってると思いますから。」

 不思議そうな様子の崇子の返事を待たずに、安藤は電話を切る。
 すると、彼の背後を、刑事が二人、訝しげに首を傾げながら通り過ぎていく。聴取が終わったのだと、安藤は智紀の病室へ急ぐ。

「あ、先生…、智紀がお話したいそうです。」

 夫人が、複雑な表情で微笑む。

「え?僕に、ですか?」

 恐らく恨み言を言われるのだろう、と安藤は覚悟する。安藤と入れ違いに夫妻が病室を出て行き、そこには安藤と智紀の二人きりになった。

「先生…」

 真っ直ぐに安藤の顔を見て、智紀は口を開いた。


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いったいなにを……

智紀がなにを話すのか、最重要ポイントですね。
それにしても、まさかお姉さんがあんなことをするなんて……。愛するがゆえですね。

そういえば、fateさんのプロフィールに写真がつきましたね!ブログの雰囲気に合っていて、とても良いです!

いつもコメントありがとうございます!嬉しい限りです!
#580[2011/11/18 23:07]  ゆない。  URL 

Re: いったいなにを……

ゆない。さん、こちらこそ、いつもコメントありがとうございます。
っていうか、最近のfateのコメントふざけててすみません(いや、本人は真面目なつもりなんですが(--;)
はい、ありがとうございます。だけど、あのイラストは又借り状態なので、その内、取り上げられるかも~(^^;

お姉さんは、サクリ姉なので、やはり、何かしないとね~

#583[2011/11/19 05:58]  fate  URL 

私もショックでしたよ

うわうわ、fateさんの作品としてはわりと異色の展開ですよね。
女性がこういうふうに直接的暴力に訴えることは、fateさんワールドではあまりなかったように思うのですが。男性の脇役さんにだったらあったかな。

千鶴さんも思い余ったのか、それだけ妹を大切に思っていて取り戻したいのか、これはこれで一種の狂気なのか? 誰が千鶴さんをそうさせたの?

いろいろと考えつつ、続きも楽しみにしています。
智紀くん、なにを言うんだろ。

#2219[2012/06/25 00:59]  あかね  URL 

Re: 私もショックでしたよ

あかねさん、

> うわうわ、fateさんの作品としてはわりと異色の展開ですよね。
> 女性がこういうふうに直接的暴力に訴えることは、fateさんワールドではあまりなかったように思うのですが。男性の脇役さんにだったらあったかな。

↑↑↑お、おお?
そうすか?
そういえば、そうか・・・
これは、あれっす。
これの元となったサンホラの唄が「妹を殺された姉が、村人すべてを焼き殺すという復讐劇をやってのけた」というすさまじいものだったので、その影響ですかねぇ。
結局、サンホラって壮絶な悲劇をこれ以上ない彩(いろどり)で華麗に甘美に描いている世界なので、一分の救いもないその完璧な世界に、ほんの少しの‘ひかり(救済)’を求めたくなってfateは別の未来を模索してしまうんだす。
だから、この美しい‘狂気’は智紀と同時にサクリ姉も抱いているべきものだったんですな!

> 智紀くん、なにを言うんだろ。

↑↑↑なんだか、皆様に期待されておりますが、実はたいしたことは言いません(^^;
はははは・・・
#2220[2012/06/25 07:41]  fate  URL 














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