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Stories of fate


Sacrifice(R-18)

Sacrifice 29

「お姉さんが来た?」

 病院に戻って、看護師から話しを聞いた安藤は眉をひそめた。

「…ややこしいことになりそうだな。」
「すみません、若先生が事情をよくご存じなくて通してしまったようで。」
「そうか。…いや、仕方がない。確かに僕が説明不足だった。まさか、身内が訪ねて来るとは思わなかったからね。…彼女は何か言ってた?」
「いえ。だた、何かあったら連絡をくれるように、と。」
「…分かった、ありがとう。」

 小さな医院なので、入院設備は個室が3室しかない。現在、入院しているのは、他に軽い食中毒のおばあちゃんだけだ。彼女も経過が順調なので、2~3日内には退院予定だ。

 羽那の病室を訪ねると、彼女は目を開けていた。
 扉を開けて、こんこんとノックをすると、羽那はこちらを向いて、怪訝そうな表情をした。自分がどこにいるのか分かっていないようだ。

「羽那さん?気分はどうですか?」
「…大丈夫です。」

 ぼんやりと彼女は答える。

「僕は、安藤というんだ。医者だよ。ここは僕の病院だ。君はちょっと栄養失調と過労みたいなもので、今、僕が治療している。」

 そばにあった丸椅子を引いて、安藤は彼女の傍らに座った。羽那はほとんど無表情で彼を見つめている。

「何か食べれそうかい?」
「…何か…」
「うん、そう。ご飯、パン、麺類。何か食べたいものある?」

 羽那はちょっと考えて首を振った。

「じゃあ、アイスクリームとかジュースとか?」
「…水。」
「水?…そうか、喉が乾いた?」

 羽那はこくりと頷いた。

「分かった。今、用意するよ。」

 安藤は言って、部屋の備え付けの小さな冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。そして、冷蔵庫の上に置かれているグラスに注いで、羽那の身体を抱き起こして、少しずつそれを口に含ませた。

 羽那はふと智紀のことを思い出していた。
 後半の数日間、ほとんど彼女は自力で身体を起こせなくて、いつも、智紀が彼女の身体を支えていた。背後から抱きかかえるように。そして、食事の介助をしてくれたのだ。

 基本的に、智紀は本当にひどいことはしなかった。ただ、彼は彼自身の闇に怯えて、羽那を失う幻影に惑い、どうにかして彼女をつなぎとめようとしていたに過ぎない。だから、羽那が確実に手の内にいる間は、優しかったのだ。

「…智紀…は?」

 ぽつりと、羽那は聞いた。ほとんど無意識的に。

「…彼に会いたい?」

 少し意外に思いながら、安藤はそっと彼女の身体をベッドへ戻す。
 聞かれて、羽那は考え込んだ。

「分からない。」

 そうだろうな、と安藤は思う。

「まずは、ゆっくりして体力を取り戻さないとね。」


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[恋愛:エロス:官能小説

~ Comment ~


予想外

こんな展開になるとは思っていませんでした。智紀の闇がどうなるのか、目が離せません。
二人が幸せに結ばれるエンディングがふっと頭に浮かびました。そうなって欲しい気もします。
#552[2011/11/16 20:59]  ゆない。  URL 

Re: 予想外

ゆない。さん、二人の幸せを祈っていただき、嬉しいです(^^)

あと一騒動あります。
よろしく(?)です~


#556[2011/11/17 07:11]  fate  URL 














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