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Stories of fate


真紅の闇

真紅の闇 (‘ひかり’への道) 20

 夢なら良いと何度も繰り返しながら、泣きながら、芽衣は初めて自分の足でその屋敷を出た。誰もが寝静まっている一番闇の深い時間帯に。

 玄関まで見送ってくれた榊に背を向けて。

 まっくらな道を真横に眺めながら、芽衣は必死に草の中を歩く。まとわりつく青々と茂る雑草を踏みしだきながら。草の匂いにむせそうになりながら。

 心はまだ痛みに血を流して泣き叫んでいるのに、芽衣はもう振り向かなかった。

 君が生きて幸せになってくれること…、
 それが、俺の希望だ。

 喉の奥が熱くて苦しくて、呼吸がうまく出来ない気がした。多少のつわり症状が出ただけで、芽衣はまだ目立った身体の変化は感じられない。だけど、確かに感じる。何か別の者の意志を。

 歩き続け、へとへとになりながら、芽衣は進む。ただひたすらに。

 やがて、森が口を開けた。見つめる度に息苦しくなっていた黒い、暗い、不気味な森。一瞬、彼女はひるんだ。何か得体の知れないモノが潜んでいそうに感じられたのだ。肉食獣はいない、と榊は言った、だけど、そんなこと、どうして彼に分かるのだろう?

 ケモノの匂いが漂うような気がした。
 何か赤い目が光っているような気がした。芽衣を苛み続けた赤い闇が、そこに巣食っているように感じられた。芽衣は、森の手前で一歩も動けなくなってしまった。どうしよう、もう、東の空に薄明るいものが混じり始めている。

 不意に、遠くから微かに音が響いてくる。なんだろう?
 車の音?

 はっとして芽衣は駆け出した。いけない、まだゲートが見えていない。

 泣きそうになりながら、芽衣は駆け続ける。もう、何も見えなかった。黒い木々の枝がしなる道の上も、木のウロから覗く目玉も。

 気がつくと、聞こえていた音は背後から迫る車の音だ、と知った。思わず森の道の真ん中を駆けていた彼女を車のライトが照らしている。

 見つかった!!!

 芽衣は、道をそれて森の中を闇雲に駆ける。うっそうと生い茂る木々、息を切らせて奥へ入り込んだ芽衣は、大木の陰に身を潜め、背の低い潅木がうまい具合にしゃがみ込んだ彼女の姿を隠してくれた。

「芽衣!」

 不意に響いてきた懐かしい、愛しい声。それは榊の声だった。芽衣は嬉しくなって思わず立ち上がって声をあげそうになった。しかし次の瞬間、何か強烈に身体を押さえ込まれる。いや、物理的に押えられた訳ではない。身体の奥から動きを止められた、という感触だった。

 芽衣はこの感覚に覚えがあった。
 榊の、思念派だ。

「芽衣ちゃん?どこだい?」

 榊の声が聞こえる。その辺を歩き回る足音も。しかし、同時に彼の心は「逃げろ!決して出てくるんじゃない!」そう直接彼女に叫んでいる。尚も榊の声が聞こえる。芽衣の名を呼ぶ、愛しく懐かしい声。それから、他に数人の気配。ぞっとする空気をまとったまま。

 身体が震えてくる。
 彼の腕に抱かれ、胸の熱さを感じたい。抱きしめて欲しい。もう一度だけ…!
 芽衣は震えながら耳をふさいだ。

 榊、榊、榊…っ
 心の中で何度も何度も呼びかける。私はここにいる!ここにいるよっ

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