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Stories of fate


Sacrifice(R-18)

Sacrifice 24

「坊ちゃま、お嬢様はかなりお疲れです。しばらくそっとしておいて差し上げてください。」

 その夜、結局目覚めずに、夕食の席に現れなかった羽那の分の食事をワゴンに用意しながら、篠田は努めて穏やかに諭す。

「…。」

 智紀は暗い瞳で彼を見上げ、何も言わなかった。お前まで邪魔をするな、そういう目だ。

「お嬢様にお食事を…」
「俺が行く。」
「…坊ちゃま。」
「良いから、俺が食べさせるよ。」

 篠田は一瞬、何かを言い掛けて言葉を飲み、分かりました、と答える。今は何を言っても無駄だ、と判断したのだろう。しかし、羽那の体力は恐らく限界だ。

「旦那様と奥様が週明けにお帰りになるとご連絡いただきました。」

 ふと思い出したように篠田は言う。そろそろ食事を終えようとしていた智紀にコーヒーの支度をしながら。

「ふうん。」

 興味なさそうに、彼は答える。そういえば、そろそろ2週間経つのか。

「奥様におうかがいいたしましたが、坊ちゃまにお見合いのお話が来ているそうですよ。」
「…見合い?」
「はい。お相手は瀬田グループの総帥の従妹にあたられる方だとか。」

 智紀は露骨に不快な表情を浮かべた。

「俺はまだそんな気はない。」

 篠田は何も言わずに、ただ微笑を浮かべた。

 智紀の結婚は彼自身の自由にはならない。父も母も同じように家同士の政略結婚で跡継ぎである彼を儲けた。二人はそれほど冷たい夫婦ではなく、愛情があるかどうかは不明だったが、とにかく仕事上のパートナーとしてはうまくいっているように見える。

 しかし、智紀は納得していた筈のものが不意に揺らいだ。

 他の女に興味がわかなかった。会社のためとはいえ、子どもを作る行為を、好きでもない相手と出来ないと思った。

 そして。篠田がくれたコーヒーを一口飲んだ瞬間、たった今の自分の考えに愕然、とする。

 好き…?
 俺が、誰を?

 智紀はカップをテーブルに投げ出すように置いて、そして、立ち上がった。

「ごちそうさま。」

 不意に浮かんだ羽那の無邪気な、無垢な表情の数々。感情を露わにしないおっとりとした笑顔。そして、怯えた表情。
 智紀は少なからず動揺し、そのままテーブルを離れる。

「坊ちゃま…お嬢様のお食事は。」

 篠田が慌てて声を掛け、智紀ははっと振り返る。

「…ああ、ごめん。俺が運ぶよ。」



 
 部屋に戻ると、羽那はさきほど彼が寝かせた状態のまま、薄いタオルをふわりとかぶせられただけの状態でこんこんと眠っている。顔の横に投げ出された小さな白い手。掴まれた跡が痛々しく残っている手首。軽く開いたままの足には、ふくらはぎにまでキスマークが紅く刻まれている。

 彼が戻って来た気配にもまったく気付かず、羽那は眠りの世界に逃げ込んでいるかのようだった。

「…俺は、君以外、要らない。」

 呟くように、呻くように、智紀は言って、その額に軽く口付ける。

「羽那…?」

 乱れた髪の毛をそっと指ですいて、彼は呼びかけてみる。

「羽那、食事だよ。」

 しかし、彼女は身動きひとつしない。静か過ぎる呼吸を淡々と繰り返すだけだ。あどけない表情。生まれたばかりの赤ん坊のようだ。

 無理矢理揺り起こす気にもなれず、智紀はそのまま羽那の寝顔を見つめる。
 何度抱いても、満足しない。

 どれだけ責めても羽那はどこか閉ざされているような印象を受ける。心まで陵辱は出来ないのだと、無言で訴えられている気がした。

 それならどうすれば良い?
 捕まえておくには?

 ここから一歩も出さずに、もう、誰にも会わせずに、他に何も考える隙を与えないくらい抱いていれば良いのか?鳴かせ続け、酔わせ続けていれば良いのか?

‘お嬢様はかなりお疲れです。しばらくそっとしておいて差し上げてください。’

 不意に、天からの声のように、篠田の穏やかな声が蘇る。

「…イヤだ。」

 羽那の身体にすがるように、智紀は彼女の胸元に顔を埋める。

「イヤだ、羽那。俺から離れるな。」


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[恋愛:エロス:官能小説

~ Comment ~


加速していく物語

どんどん核心に迫ってきましたね!
おもしろくなってきました!!
智紀の‘満たされない思い’がなんなのか、実に気になります!
あと、なんだかんだで篠田の存在も気になったりしています。なにげにキーパーソンのような……。
#534[2011/11/15 23:00]  ゆない。  URL 

Re: 加速していく物語

ゆない。さん、コメントありがとうございます。
お姉さんが羽那に会いにきた、それで、崩れた均衡は、もう留まるところを知らず、一気に崩壊へ向かいます。
なんて(^^;
お姉さんもすでに‘狂気’の一部なんですな~
#538[2011/11/16 06:58]  fate  URL 

ひかりが明るければ明るいほど、闇は濃く深い、ですよね?
 
たぶん、fateさんとわたしは似たようなテーマを抱えてものを書いてると思います
「遍愛日記」で、こちらの智紀くん(さん、というより、クンでいいですよね?)と似たセリフを言い出すひとがいますよ?
ふふふv
 
羽那ちゃん(ちゃん、でいいかな、と。さん、って感じじゃないかなって)にしても、ある部分を取り出してみたらエリス姫と似ているところが感じられるなあと思います
 
またお邪魔しますねv
 
#941[2011/12/15 18:04]  磯崎愛  URL 

磯崎愛さまへ

磯崎愛さん、
 
> たぶん、fateさんとわたしは似たようなテーマを抱えてものを書いてると思います

↑↑↑ほえええぇぇっ??? そうですか? まだ他作品は触りだけなので、エリス姫を拝見している限りはそんな感じは受けませんでしたが。
ただ、世界の構成…つまり、人物像や心理背景にものすごく親近感を抱きました。
心地良いというのか。

> 「遍愛日記」で、こちらの智紀くん(さん、というより、クンでいいですよね?)と似たセリフを言い出すひとがいますよ?
> ふふふv

↑↑↑うわおぅっ!!! それは楽しみだ~っ
へへへへ~
あまりに健全な世界は、しばらく浸っていると、fateは溶けてなくなりそうなので、狂気を吸収して精気を補充せねばっ
(オカシイだろ、それが既に…(--;)
 
> 羽那ちゃん(ちゃん、でいいかな、と。さん、って感じじゃないかなって)にしても、ある部分を取り出してみたらエリス姫と似ているところが感じられるなあと思います

↑↑↑何気に、fateの描いた女の子の中では、この子が一番潔いというか、強いかも知れない、とfateも後で思いました…。
知能が正常に発達しない子って、妙に純粋で、多くのことをソツなくこなす、という芸当は出来ないかわり、たった一つのことに集中出来る。だから、芸術家が生まれるし、その部分だけが妙に研ぎ澄まされるから普通の人の辿りつけない境地に至れる。
そんな気がします。
だからこそ、智紀は彼女に反応したのかも知れない。
普通の女の子だったら我慢出来ないことも、受け入れてくれる。
そして、羽那自身も多くのことを求められる社会に普通に出るよりも、これ! と信じた一つのことだけ見つめていれば良いから。

とかなんとか、勝手なことを考えたfateでした~(^^;
#949[2011/12/16 08:42]  fate  URL 

こんにちは。
続きを読みに行こうと思ったら、これみてコメントしたくなっちゃいました(笑)

>あまりに健全な世界は、しばらく浸っていると、fateは溶けてなくなりそうなので、狂気を吸収して精気を補充せねばっ
(オカシイだろ、それが既に…(--;)
 
いえいえ、
おかしく
ないですよ
ものつくるひとって、fateさんもおっしゃってるように、なんかこう、集中力もいるし、それこそまさに「辿り着けない境地」なんだと思いますよ~
 
世界構成、人物像、心理描写、はい、わたしもそう感じます!

ではでは

 
#987[2011/12/19 13:24]  磯崎愛  URL 

磯崎愛さまへ

磯崎愛さん、

ありがとうございます。
天才と狂気は紙一重~なので、真の芸術家は間違いなく皆、変ですよね。
と、fateが変なのを正当化はしませんが、狂気に至らないと描けない世界があって、それを受け入れてくれる人がいらっしゃるってことは、けっこう皆さま、実は! まっとうな‘闇’をどこかに抱いているのかも知れない、と不届きなことを思ったり(^^;
(きゃあ~っ、ぶたないで~っ)

などと更に変態発言を繰り返して、今日のところは閉めておきます~(--
#993[2011/12/19 18:41]  fate  URL 














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