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Stories of fate


Sacrifice(R-18)

Sacrifice 23

「ご…ごめん…なさい…」

 訳も分からず、羽那は謝り続ける。暴力的な智紀の扱いに、ただ、怯えて、震えている。泣きながら、許しを請いながら。

 それでも、逃げようとはしない。誰かに助けを求めようとはしない。
 羽那は、ただひたすら智紀に対して向き合おうとしているように感じられた。

 不意に、智紀は痛ましいようないじらしさを感じて愕然とする。何の打算も計算もなく、暴力に怯えて泣いている女の子。

 お金で手に入れたとはいえ、智紀は初めから、どうしてもこの子が欲しかったのだ。
 他の何と引き換えても惜しくないほどに。

 それまで大抵のものは買い与えられていて、彼はモノに執着を抱くこともなく今まで来た。女の子との付き合いも特に不自由したことはない。両親はいつも忙しく、彼が物心ついたとき傍にいたのは、篠田だけだった。
それらに不満を抱いていた訳ではない。何不自由なく育てられ、成績も優秀でスポーツも得意だ。友人もそこそこいるし、遊び仲間にも恵まれている。

 それでも、何か満たされない思いを抱き続けていたことも確かだった。
 それが意識されていたのか、無意識だったのかは別としても。

 ‘満たされない思い’

 それが、くすぶったまま抱えられ、意識されることなく巨大化して彼を内側から侵食するに至ったのかも知れない。
 羽那を見たとき、智紀は、何かを感じたのだ。一般的なことには関心を示さない少し知能が弱い女の子。人の心に敏感で、相手の傷を、傷と意識せずに接してくれる子だと。

 だから。
 彼は羽那に異様な執着を抱き、手に入れたかった。自らの闇を、傷を、癒すために。




 そして羽那もまた、何故、これほど恐れている相手のそばにいるのかよく分からなかった。脅されていたとはいえ、どうして姉に助けを求めなかったのか。

 彼女は、言葉でのコミュニケーションが得意ではないから、元々人付き合いがうまく出来ないから、言葉での情報よりもずっと深い部分で人を感じるのかも知れない。態度や言葉や、一般的な手段ではなく。‘魂’に触れる部分で。

 そこに何かを感じて留まっている。そうい状態なのかも知れない。
 現実的に逃れる方法がないこととは別の次元で。




 死んだようにぐったりと横たわる羽那を見て、智紀はやっと正気に返った。

「羽那…?」

 一瞬、その青白い顔色にぎくりとした。まるで息をしていないかのようだ。

「羽那?」

 背中にうでをまわしてそっと抱き起こしてみる。細い首に手の平を沿わせ、脈動を感じてほっとする。細く弱く静かな脈だったが、確かに動いている。

「羽那。」

 何度も名前を呼んでみる。だけど、それ以上をどうして良いのか分からない。手を離したら、ちょっとでも目を離したら、あの「姉」が来てこの子をさらって行ってしまいそうな気がした。いや、それよりも、この子は家族を恋しがってここを逃げ出すかも知れない。

 羽那が、いなくなってしまう。
 そう、明確に意識した瞬間、すとん、と辺りが闇に沈んだ気がした。気が遠くなるほどの‘絶望’と‘孤独’を感じた。

 ぞっとした。
 ‘ソウハサセナイ’
 心の奥底から冷たく声が響く。
 ‘決シテ逃ガシハシナイ’

 それが、『死』であっても、この子を渡しはしない。
 動かない羽那の身体をぎゅうっと抱きしめる。

 ‘誰ニモ、渡サナイ’
 

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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[恋愛:エロス:官能小説

~ Comment ~


こんばんは。
 
おおっ、
ここ、ちょーぜつわたし好みで、何度も読んでしまいましたっ!
なんかですね、
ただたんに、すぐ仲良くなってらぶらぶとかより、こんなふうなのが、好きだったりします。 
fateさんの作品のこういう感情の高まりや、触れ合いのところがとても好きです。

こちらにもお越しくださいまして(しかも二件も☆)、
誠にありがとうございます。
 
また来ますね~
 
#928[2011/12/14 19:53]  磯崎愛  URL 

磯崎愛さまへ

磯崎愛さん、
 
> おおっ、
> ここ、ちょーぜつわたし好みで、何度も読んでしまいましたっ!
> なんかですね、
> ただたんに、すぐ仲良くなってらぶらぶとかより、こんなふうなのが、好きだったりします。 
> fateさんの作品のこういう感情の高まりや、触れ合いのところがとても好きです。

↑↑↑おええええぇぇっ???
磯崎さんにそんなことをおっしゃっていただけるとはっ!
っていうか、エリス姫のあの高潔な魂を華麗に描かれる方が、こんな‘闇’を嫌悪されずに受け留めていただけるとは、びっくりでした~!!

これは、ある種の‘闇’の極みですな。
‘ひかり’(環境的な要素など)の強い人間ほど、実は闇は深く暗い…。そんな感じで。
だけど、その闇を植え付けたのは‘親’でしょう。

そして、深すぎる‘闇’は、育ってしまった‘闇’は完全に昇華することは出来ない。
それも現実。そんなことをちょっくら乗せてみました~(^^;

#935[2011/12/15 08:11]  fate  URL 














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