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Stories of fate


真紅の闇

真紅の闇 (檻の中) 16

 男と女がひとつ部屋の中で昼夜を共にすること。そこに何があるのか、芽衣も頭では分かっていたし、そして、もし榊がそれを望むなら、彼女は特にイヤだとは思わなかった。未知なることへの不安はあったし、その後、どうなるのかの漠然とした恐怖もあった。しかし、この閉ざされた空間で他人の干渉もなく、自由もなく、芽衣に選択の余地などなかった。

 しかし、榊は、一切彼女に手を出してはこなかった。

 それどころか、彼女が眠っている間、ベッドに近づきもしない。眠くなるとソファに適当に横になるだけだ。彼はもともとあまり睡眠を必要としないのかも知れない。しかし、榊の目に明確にケモノの色が宿ることがある。それなのに、彼は芽衣に触れようとはしない。

 どうしてだろう?と芽衣は思う。残念なのでもなく、ほっとしているのでもなく、純粋に疑問を感じた。

「どうしたの?」

 すでに一週間が経過しようという頃、なかなかベッドに入ろうとしない芽衣の様子に、榊は読んでいた本から顔をあげた。

 寝巻きに着替えた姿で、芽衣はどこかもじもじと彼の目の前、ソファの脇に所在無く佇んでいる。

 外出も許されない彼女は、窓の外の景色を眺めるか、榊の書棚にある本をつらつらと眺めるかで、一日をなんとか過ごしている。テレビもラジオも外界を知る手掛かりの一切ないこの部屋では時間の流れすらひどく曖昧だ。そして、ヒドイ目に遭ったというぼんやりした記憶の中のあの施設の中に戻されることだけをひたすら恐れている。時折、蟇目の気配を感じる。彼が部屋に入ってくることはないのだが、榊が扉の向こうへ消えてから、戻ってきたときに、彼の気配を一緒に連れて来ることがあるのだ。

 どちらの空気も、どこかひやりとしている。それでも、榊はまだ芽衣に対して何らかの‘情’を抱いていることを感じられるのに対して、双子の兄である蟇目は、彼女をモノとしか認識していない。何故かそう感じるのだ。

「あの、榊は…ここから出たいと思わないの?」
「ここから?」

 榊は特に意外そうでもなく、本をテーブルに伏せて彼女の話を聞いてくれる体勢に入った。

「そうだね。前はずっとそう思ってたよ。いつか外へ出て普通の世界を見てみたい、ってね。」
「…ダメ、なの?」
「無理だね。」

 あっさりと彼は答える。

「言ったろ?俺は、父の‘息子’というよりは君と同じ‘被験体’と変わらないんだ。実験動物と同じだよ。俺がここにいないとデータが取れない。」

 にこっと笑みを作る彼の言葉に、だけど、芽衣はどこか違和感を抱く。

 データ?そんなもの、今の時代、どこからだって送信可能ではないだろうか?それに、こんな場所にずっと押し込められたままで、何の研究が出来るのだろう?
 明確にそんな疑問が浮かんだ訳ではなかったが、それでも、何かおかしいと彼女は思う。

「榊は…このままで良いの?」
「君は、帰りたいんだろうね。」

 芽衣の質問には答えずに、榊はふっと視線を窓の外に移した。暗い森。どんよりと暗い空。今夜は雨模様なのだろう。遠くに見える黒い森が、閉鎖的なこの空間を益々息苦しくさせているような気がする。一緒に窓の外を見つめた芽衣は、なんだか、君が悪くなって俯く。柄のない桃色一色の寝巻きの裾をぼんやりと眺め、素足が少し冷えてきた、と感じた。

 しばらく、榊は無言で外を見つめていた。その金の目が不意に彼女を捕え、芽衣はその視線に驚いて顔を上げた。

「芽衣ちゃん、君、俺の声を信じちゃいけないよ。」
「…?」
「心に直接飛び込んできたモノに従うんだよ。」

 何を言われているのか分からずに、芽衣はぼんやりと彼を見つめた。

「俺も、ちょっと夢みてみようかな。」

 そして、その不意に細められた瞳に、明確な温かいものを感じて、芽衣は思わず目を見張る。とろけそうな優しい光が、そのとき彼の瞳に宿っていた。

「抱いて、良い?」


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ホラー・恋愛

~ Comment ~


もう何が正常で何が狂っているのかすらわからん。

正常異常の支点が狂うのがここまで恐ろしいとは思わなかったであります。

芽衣ちゃんが望んでいた「外」の世界のほうが実はより恐ろしい世界だったら?

どこに着地するかわからないスリリングさがありますね(^^)



あっと、よくよく考えたら、昨日書いて今日UPした「サイボーグ」という掌編のほうが、「紅蓮の街」いちばんの変態男サシェル・イルミール男爵より変態的かもしれないです。いわゆる隠微な「ビザール」ではなく、山上たつひこ的「変態」ですが。
#548[2011/11/16 15:18]  ポール・ブリッツ  URL  [Edit]

ポール・ブリッツさまへ

ポール・ブリッツさん、コメントありがとうございます。
いや、これはあんまりじっくり味わわない方が良いかと思います。
特に、この章は、恐らく一番混乱の多い場所です。
この世界にはfateのいうところのではんなく、現実社会の‘狂気’が紛れ込んでいるんです。

「サイボーグ」ですね!
「紅蓮の街」の後に、拝読させていただきます。
ただ、fateは‘闇’を抱く人間は理解しますが、猟奇殺人者は嫌悪します、というタイプの変人ですので~

#551[2011/11/16 20:17]  fate  URL 

fateさんが描く男性キャラには、不思議な魅力がありますね!
強いようで弱い。主導権を握っているようで、女性のほうに握られている。そんな特徴を持っていて、妙に人間くさくて、嫌いになれません。むしろ好感を抱いてしまいます。

でもまぁ、やっぱり芽衣ちゃんとかの女性キャラが可愛いんで好きですけどね!ww
#1584[2012/02/10 11:05]  ゆない。  URL 

Re: 榊

ゆない。さん、

> fateさんが描く男性キャラには、不思議な魅力がありますね!

↑↑↑おおおおおっ、なんと嬉しいことをっ!!!
不思議っていうか、ははははは。
変ですが(^^;

> 強いようで弱い。主導権を握っているようで、女性のほうに握られている。そんな特徴を持っていて、妙に人間くさくて、嫌いになれません。むしろ好感を抱いてしまいます。

↑↑↑やはり、あれでしょう。女性の方が強いんです。
女性は‘聖母’であるから。緋色ちゃんもそうですね。裏緋色ちゃんも、そう感じました。

> でもまぁ、やっぱり芽衣ちゃんとかの女性キャラが可愛いんで好きですけどね!ww

↑↑↑ありがとうございますっ
女の子は至上の存在です!
実は、‘女’は嫌いで、ガキも嫌いだけど、女の子は良いですよね~(^^)

ありがとうございました(^^)
#1596[2012/02/11 09:30]  fate  URL 














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