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Stories of fate


Sacrifice(R-18)

Sacrifice 14

「羽那。」

 智紀の声に、羽那はぼんやりと目を開けた。

「食事しなかったのかい?」

 たった今出て行ったはずの智紀がそこにいた。風がそよそよと頬を撫でてほんの少し涼しい空気を運んでいる。気のせいか、光の色が少し翳ったように見える。

「声を掛けたけど、起きなかったからそのまま置いてきたって篠田が言ってたけど…」

 智紀が振り返り、その視線の先にはワゴンの上に、ラップをしたサンドイッチの乗った大皿とオレンジジュースが置かれていた。

 ゆっくりと身体を起こしてみると、髪の毛は既に乾いている。羽那はそのときになって、ようやくあれから大分時間が経っていたんだと気付いた。

「お腹空かない?俺はこれからちょっと勉強するから、食事しときな。ジュースに氷をもらおうか?」

 智紀は、机の前の椅子に腰を下ろして羽那を振り返った。まだ、頭の中が靄がかかったみたいにぼうっとしている。羽那は、彼女をじっと見つめる智紀の視線に気付いて、何かを聞かれていたんだとやっと思い当たる。

「…ごめんなさい…あの…」
「シャツを貸すから、食事をしな。それとも、夕食まで我慢するかい?」

 髪の毛が頬に張り付いたまま、羽那は茫然と頷く。何に返事をしたのかさっぱり分からない。智紀は立ち上がってクローゼットから黒いTシャツを取り出し、ばさりと羽那の身体に着せかけ、身体に巻いたままだったタオルを取り外した。

「今、食べる?それとも、後で食べる?」

 智紀は、羽那の顔に張り付いていた髪の毛をかき上げて、かがみこんで彼女の顔を覗き込む。

「…食べます。」
「分かった。」

 ベッドに足を下ろして座らせ、智紀はワゴンを手の届くところまで運んでやる。

「時間が経ってるから、ちょっとパンが乾燥してるかも知れないよ。」

 羽那はこくりと頷く。
 そして、不思議そうにふうっと智紀を見上げた。彼はすでに机に向かい、勉強を始めている。

 あれ…?と思った。
 あれほど、そばにいるだけでぞっとしていたのに、今は、何も感じなかった…。そして、彼の肩越しにいつも見えていた冷気のようなもの。それが、そのとき、影をひそめているような気がした。


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[恋愛:エロス:官能小説

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