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Stories of fate


花籠

花籠 (前夜) 8

 いつの間にか、奈緒は眠り込んでいた、らしい。人の話し声でうっすらと意識が戻った。スミレが戻ってきたらしく、二人の男が一つのベッドに座って何かを話し込んでいた。

 二つのベッドの間にある小さなナイトテーブルのような台に、お弁当の包みが重ねられ、二人は缶ビールを片手に何か地図のようなものを覗き込んでいた。

「会場からまっすぐ抜けると国道に出る。そして高速に乗ってしまえば後は大丈夫だろう。ただ、お前・・・どこまで持つ?」
「そんな、ヒトを病気持ちみたいに言うなよ。今回は力を加減するからなんとかなるよ。」

 え?と言って、スミレは奈緒に視線を落とし、ああ、そうか・・・と呟く。

「お前には今、付属品がくっついてたんだっけ。」

 スミレの視線を追って、ローズが振り向き、彼女の方を見た。視線が合って、奈緒はぎくりとする。話題が自分のことに移っていることに気付いたのだろう。

「ああ、起きたか。」

 ローズは微笑んだ。

「チェリー、君の仕事を説明するから起きておいで。」
「おう、まずは飯を食おうぜ。」

 ガサガサと地図をたたんで、スミレは弁当の包みに手を出す。奈緒はそれを見て慌てて身体を起こした。
食事を始めながら、ローズは明日、奈緒がすべきことを淡々と説明する。明日、出かける先は葬儀会場であること。奈緒は、故人の元同級生だった素振りで会場入りし、ローズは付き添いの兄の様相で彼女と共に中に紛れ込む。スミレは、葬儀社の人間の素振りで裏から入る予定だ。そして、犯人を見つけるのは、ローズの役割なのだ。そう、それが彼の唯一の特技。

 彼は、死者の声を聞くことが出来るのだ。が、正確には音声ではない、思念のようなものを捉えることが出来る。モノに宿る残留思念を辿り、生前の言葉を導く。

 まぁ、葬儀会場と言うのは誰が入り込んでもそれほど違和感なく受け入れられるものだ。入り込むのはそれほど難しくはない。ただ、ローズが仕事をするには、故人の持ち物、つまり遺品が必要だ。それをどうやって手に入れるかだ。

「チェリー、出来れば君に手伝って貰いたい。」

 ローズは彼女の顔を覗き込む。ご飯を噛み砕いていた奈緒ははっとしてそれを慌てて飲み込んだ。

「同級生らしき人間が手薄になったら、家族に近づいて、適当なことを言って遺品をひとつ借りてきてもらえないか?」
「・・・それは難しいよ、ローズ。」

 スミレが唸った。

「この子の声は女の子だ。同級生だったという誤魔化しはしゃべらないことを前提だ。」
「じゃあ・・・一層のこと、付き合ってた彼女というのは。」
「・・・微妙だなぁ。」
「あ・・・あのっ」

 奈緒は、思わず口を挟む。なんだかよく分からなかったが、二人の役に立てるかも知れない、ということが彼女を興奮させた。

「あの・・・私、やってみます。」

 二人に注目されて、奈緒はどぎまぎしてしまった。それでも、真剣な瞳でスミレを、そしてローズを見上げた。

「確かに声は誤魔化しようはないなぁ・・・。」

 ローズが苦笑するのを見て、はらはらしながら奈緒は一生懸命言葉を探す。

「でも・・・その、頑張ってみます。」
「良いよ、分かった。その子に秘かに憧れていた他校の女子生徒ってことにしよう。ちょっと変更だな。練り直しだ。スミレ、何か周辺の学校の制服を手に入れられるか?それと、この子に合う程度の変装グッズと。」
「大丈夫だろ。‘竹’の店主に連絡を取ってみるよ。」

 スミレはにやにや笑いながら部屋を出て行った。今まであまり他人と関わりたがらなかったローズが、女の子の意見を取り入れてみたり、その為に動こうとしているのがおもしろかったのだろう。

「チェリー、ひとつだけ覚えておいて。君が俺たちの仕事に関わるのはこれが最初で最後だ。」

 ローズの言葉に、奈緒は一瞬、傷ついたような目をした。しかし、彼女はそういうことには慣れていた。すぐに悲しそうな笑顔を作って頷く。迷惑を掛けてはいけない。奈緒は、そんな風に思い込む。何もかもに。
 

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~ Comment ~


奈緒がなんだか不憫だね

なんだか奈緒が不憫です。
人の顔色をうかがい、自分の意見を言えず、逆らうことを知らない。できれば空気になりたいと願って生きてきたんだろうね。
どんなことでも、人の役に立てるという実感は嬉しいもの。奈緒が活躍できるといいなぁ^^
#1032[2011/12/22 10:01]  あび  URL 

Re: 奈緒がなんだか不憫だね

あびさん、

そうなんです、この子はそうやって生きてきたんです。
超! 酷いよ、fate!!!
でも、そんな生き方を強いられてきたにも関わらず、彼女の心は綺麗で、強くて、きっと素直なままなんです。
うう、余計に不憫です。

> どんなことでも、人の役に立てるという実感は嬉しいもの。奈緒が活躍できるといいなぁ^^

↑↑↑そうそうそう! 誰かに必要とされることって、誰かに感謝されることって、人が人であるために、自分を許せるためにどうしても必要なこと!
それを描いてみたかった。
奈緒ちゃんを応援してくださって、ありがとうございます(T_T)
#1036[2011/12/22 12:43]  fate  URL 














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