FC2ブログ

Stories of fate


花籠

花籠 (誘拐崩れ) 2

 奈緒は、ごく普通の一般家庭の子どもだ。違っていたのは、彼女はその家にとって厄介者だったということだ。彼女は父親は同じだったが、母親が、父親の浮気相手だったのだ。しかも、奈緒の母親は、生まれた子どもを不倫相手の玄関先に捨てて自分は焼身自殺してしまった。

 止むなく、捨てられたその子を実子として届けたその家族は、しかし、修復不可能な打撃を受けたことは間違いなかった。

 奈緒には、母親の違う姉妹が二人いた。母親は当然の如く、我が子だけを可愛がり、奈緒のことはあからさまに差別した。そして、幼い彼女に「お前は妾腹だ」と「養ってもらえるだけ有りがたく思え」と日常的に侮蔑の言葉を浴びせ、母親を見習って二人の姉妹も、彼女を馬鹿にして育っていった。

 それでも、表面上は実子として育てられているので、学校は姉妹と同じ私立の名門校に入れられ、高校もエスカレーター式でほぼ決まっていた。

 その名門校には、今回、誘拐のターゲットになった政治家の娘やそこそこ名の知れた名士が子ども達を通わせている。たまたま奈緒は、その子、笹村尚子と、背格好が似ていて、友人からの呼ばれ方が同じだったのだ。そんな間違いは滅多にしない‘彼ら’だったのに、悪い偶然が重なったのだろう、間違えて彼女をさらってしまった。

 ターゲットの家に監視カメラを設置していた彼らは、さらった筈の娘が普通に帰宅していくのをカメラで見つけて仰天する。そして、よくよく学生証などから、まったくの別人をさらってしまったことを知る。慌てた彼らは一旦その子を放って、計画を練り直す。そして、日程をすべて一日ずらすことに設定し直し、翌日、本来の目的の子をさらったのだ。最初の子の親がその日の内に騒ぎ出さなかったのがむしろ不思議だったが、とにかく、その子はどこか関係のない場所で解放して、警察にでも保護してもらうために、ローズが呼び出された。

 しかし、そこで、狂いが生ずる。そう、睡眠薬の追加投与を忘れていて、その子が目を覚ましてしまったのだ。眠らせておく予定だった少女たちは、特に拘束もされておらず、部屋の隅で目を覚ました奈緒は、ぼんやりした頭で辺りを見回し、数人の男がその狭い部屋でパソコンを使い、何か作業している姿を見た。状況がよく把握できなかったのだが、ふと足元に同じ学校のよく知る女の子が同じように制服姿で横たわっているのを見た。死んでいるのかと思って、咄嗟に、奈緒は悲鳴を上げた。

 はっとして男たちは奈緒の方を見る。そして、お互いに目を見交わし、薬を忘れていたことに気付いたのだ。

「殺せ。」

 考慮の余地もなく、リーダー格の男が言い、一人が絞殺すべく少女に近寄る。奈緒はロープを持って自分に近づく男を絶望的な思いで見つめた。恐怖に、声も出なかった。これ以上後ずされない壁際まで逃げて、男の手が彼女を捕えた瞬間、奈緒は小さく悲鳴を上げた。

 そこへ、ローズが到着し、その場の緊迫した空気は崩れた。扉を後ろ手で閉めながら、ローズはのんびりとした口調で言う。

「何、してんだ?」
「・・・早かったじゃないか。」

 リーダー格の男が、ローズに睨みつけるような視線を投げる。

「一刻も早く、ってことだっただろ?」
「感心だな。ちょっと変更があった。運ぶのは死体だ。山中かどこか人目のつかない場所に埋めてくれ。」

 目で合図を送り、男は、ロープを持った仲間にさっさと始末しろ、と告げる。

「ちょっと、待った。」

 ローズは、言った。

「殺すなら、俺に売ってくれ。」
「・・・なんだと?」

 放心状態に近くても、奈緒はとりあえずまだ殺されずに済むかも知れない、ということだけが分かった。
 交渉は成立したようで、男たちはその場で現金の受け渡しをし、奈緒を殺すはずだった男は彼女のそばから離れた。

 細い首に巻きつけられたロープを、その新しく現れた男がするすると取り払い、ぐい、と彼女の身体は抱え上げられた。殺される、と思った恐怖がまだ身体の奥に残っていて、奈緒は反射的に逃れようともがいた。

「い・・・や!・・・あ、あ・・・っ」

 ローズは暴れる少女を抱え込み、耳元にささやいた。

「良い子にしな、お嬢さん。殺しはしないよ。」

 そして、リーダー格の男に向かって確認を取る。

「じゃあ、予定通りこの子は俺がどうにかする。変更事項は、親元へ返す必要はない、ということだな?」
「始末するにしろ売り飛ばすにしろ、地下でやってくれ。」
「了解。」

関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png 紺碧の蒼
もくじ  3kaku_s_L.png 真紅の闇
もくじ  3kaku_s_L.png 黄泉の肖像
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 2
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 3
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 4
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 外伝集
もくじ  3kaku_s_L.png 蒼い月
もくじ  3kaku_s_L.png 永遠の刹那
もくじ  3kaku_s_L.png Sunset syndrome
もくじ  3kaku_s_L.png 陰影 2
もくじ  3kaku_s_L.png Horizon(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png Sacrifice(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png 閑話休題
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  ↑記事冒頭へ  
←黄泉の肖像 (作品説明)    →黄泉の肖像 (地下牢) 1
*Edit TB(0) | CO(2)
ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ミステリ

~ Comment ~


おおお。これはまた「マーメイドシンドローム」とは違った趣のお話ですね。
次にどれを読もうか、とっても迷ったのですが、どれも面白そうで・・・。

fateさんの書くお話は、なんというか淡々とした文章なのにピンと張り詰めた空気のようなものがあってスリリングですね~。
すごく冷酷で恐ろしいモノが流れているはずなのに、それが目を背けたいようなグロテスクなものじゃなくて、思わず覗き込みたくなるような神秘的な闇のように感じられて、惹きつけられます。
私は意外に(?)肝っ玉が小さいので、どうもそういう世界をうまく書けないんで、感嘆します。

続き、楽しみに読ませて頂きます~~。

あ、遅ればせながら、リンク貼らせて頂いちゃいました。(事後承諾でごめんなさい)
今後共よろしくお願いします(^^)
#177[2011/10/20 23:36]  秋沙   URL  [Edit]

秋沙さまへ

こちらも読んでいただいてましたか!
ありがとうございます(^^)

どっちかと申しますと、こういう系が一番fateっぽいかも、です。
『マーメイド~』や『永遠の刹那』は、自身に対する癒し目的があります。休憩…というより、たまに温かい世界に触れて人間であることを確認しているような???

が、しかし、何気に緊張感を出せずにボヘン…とした感じにしかならず、どうもハードボイルドに至らず!で常に終わっています(--;
ううむ…

リンクありがとうございます(^^)
こちらこそ、よろしくお願いいたします!
#179[2011/10/21 07:52]  fate  URL 














管理者にだけ表示を許可する

~ Trackback ~


  ↑記事冒頭へ  
←黄泉の肖像 (作品説明)    →黄泉の肖像 (地下牢) 1