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Stories of fate


Sacrifice(R-18)

Sacrifice 4

 双方の親が型通りの挨拶を交わし、応接室のソファの上で連れられてきた少女は不安そうにその場に固まっている。書類の取り交わしはもう終わっていたし、相手方の両親は最後に娘をそれぞれ抱きしめて、後ろ髪を引かれるような辛そうな表情で、何度も彼女を振り返って帰って行く。そして、そのまま、そそくさと出かける両親を見送った後、智紀は、一人取り残されて不安そうな羽那に、背後から近づいて声を掛けた。

「これで、君はもう俺のものだよ、羽那。」

 ぎくり、と彼女は智紀を見上げた。そのときになって、初めて羽那は、その声を掛けてきた相手が誰なのかを認識した。ここが、誰の家であるのか。彼女を欲しがったのが誰であったのか。

「俺の名前は智紀。まぁ、戸籍上は兄になるのかな。」

 彼女の座るソファに背後からもたれて、智紀は冷たく微笑む。その瞳に、怪しく揺らめく光を認めて、羽那は背筋が凍る。肉食獣?…いや、爬虫類の目だ。ガラスのように澄んだ、狂気も熱も奥に秘めた。

 つい先ほど、彼女を置いて出て行ってしまった優しい家族がたまらなく恋しい。家へ帰りたかった。

「食事は済ませてきた?」

 羽那は、震えながら小さく頷いた。

「じゃ、おいで。家の中を案内するから。」

 差し出された手をじっと見つめ、羽那は、逃れる方法を必死に模索する。その様子に目を細めて、智紀はくすくす笑う。

「良いかい?羽那。今、ここには俺と君しかいないんだよ。意味、分かる?君は俺に逆らってここで暮らしてなんていけないってことさ。」
「…え?」
「分かったら、おいで。」

 茫然、と彼を見上げた少女の小さな手をぐい、と握り、その手を引いて立たせる。羽那の手は、冷たかった。年はそれほど変わらないが、男女の体格の差の他に、羽那は小柄で細く、小さかった。バスケットボールを部活動として続けてきた智紀は、背も高くそこそこ筋肉もある。彼の胸辺りまでの身長しかない羽那を、抱えあげようと思えば出来る程度の違いがあった。

 ずっと、この子が欲しかった。

 近づけば必ず逃げるこの子を、いつか捕えて腕の中で鳴かせたいと思っていた。小鳥のように軽やかに、仔猫のようにふわふわとした感触の色素の淡い妖精のような女の子。口数が少なく、他の女のようにうるさくない。

 この世の悪意を知らない子。
 この世界の仕組みを知らず、まだ何にも染まっていない。
 いつか手に入れて、独り占めして手元に置こうと、智紀は考えていた。
 どんな手段を使っても。

「学校はいつまで?」
「…授業は…今日で終わりです。」
「じゃ、明日は終業式?」

 羽那は小さく頷く。握られている手が、少し震えていた。恐怖ゆえなのか、嫌悪のためなのか、羽那にも分からない。傲慢で、何でも自分の思う通りに物事を進める自己中心的な人間。自信家で、支配者然としたその男の態度は、不快というより、ただ恐ろしかった。

「ふうん。じゃあ、別に明日は登校の必要はないね。」

 羽那は、はっと彼を見上げ、青ざめる。もう、学校へは行かせてもらえないのかと思う。

「ここが君の部屋。」

 二階に上がって、3番目の扉を開けて、智紀は言った。恐る恐る中を覗き込んで、羽那はその広さ、豪華さに息を呑む。部屋自体も今まで彼女が生活していたスペースより格段に広い。壁際に置かれた大きなベッド、窓際の机と書棚。建て付けの大きなクローゼット。桃色のジュータンに淡いオレンジ色の壁紙。明るい色彩が目に迫ってくる。

「手前隣が俺の部屋。」

 智紀は羽那の手を引いたまま、隣へ移る。そして、扉を開けるとそのまま彼女を引き入れる。彼の部屋は更に少し広い作りになっていて、正面中央にはベランダへ続く大きな窓が見える。そして、その両脇に更に大きな窓がついていて、その下にそれぞれベッドと机が置いてあった。不意に背後で扉の閉まる音が聞こえて、羽那ははっと振り返る。


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