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Stories of fate


マーメイド・シンドローム(R-18)

マーメイド・シンドローム 24

 夕方になって、俺はふらふらと表へ出た。どこへ行こうという当てがあった訳でも、何をしようと思った訳でもない。いや、どこかで真珠を探していたのかも知れない。

 車に乗って、知らず知らずに海へ向かっていた。
 真珠と出会ったあの海小屋へ向かう道を。

 なんとなく、健二の家の様子を覗い、付近の様子を覗い、次第に辺りが薄闇に包まれる頃、俺は海小屋に着いた。車を降りて、明かりのついていない暗い小屋の戸を開ける。人の気配を探ってみるが、そんなものはなかった。

 俺はとぼとぼと海へ向かう道を歩き、あの崖まで降りてみた。

 真珠が薬を飲んだ、あの岩場へ降り立つ。そこに立って海を見つめると、不意に寂しさがこみ上げてきた。
 いくつもの真珠の表情が浮かんだ。

 俺の言葉に凍り付いて怯えた彼女の顔、俺が名乗ったときの奇妙な表情、キスしたときの驚いて固まった幼い顔。真珠は、俺が幼い頃に出会ったときのまま、姿は大人になってもその心はまったく無垢な少女のままだった。

 それに比べて、俺はスレた大人になってしまっていた。世の中をひねて見つめ、感動を忘れ、人を信じることを諦めていた。

 真珠は、そんな俺をそれでも一生懸命愛そうとしてくれたのだろうか。
 思い出して欲しかったのだろうか。
 二人が交わしたかけがえのない‘やくそく’を。




 辺りが闇に沈むまで、俺はそこに佇み、そして、引き返した。
 もうすぐ後期の授業が始まる。
 ひと夏の‘奇跡’は、終わりを告げようとしていた。



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ファンタジー小説

~ Comment ~


そうだったのですね

ひとつの疑問が氷解して、もうすぐエンディングなのでしょうか。

ハッピィエンドなのかなぁ?

このストーリィだけではなくても、fateさんはハッピィエンドを書くのがお好きですか?
私はどっちかと言うと、ハッピィではない終わり方が好きというか、ハッピィってなに? と悩んでしまうほうなのですが。

読後感はハッピィエンドのほうがいいですよねぇ。
どこかのサイトに「ここにある物語は絶対に悲しい終わり方はしません」と断ってあるのもありましたから、たいていの方はハッピィエンドがお好きなのかな。
#145[2011/10/16 09:53]  あかね  URL 

Re: そうだったのですね

あかねさん、コメントありがとうございます。
う~ん、難しい問題ですね。
と、言うより、fateの個人的意見…というか我儘というか、ですが。
あくまで、fateはですが、作品は単なる好き嫌いです。良い悪いとか、文学的にどうの、文章がうまい下手とかじゃなくて、読んだときの空気と雰囲気と結末、それに寄る‘読後感’がすべてです。
文章的に、あまりに表現が直接的だとか(いや、これもその作品の雰囲気を壊すかどうか、なのかな?)人間のエグ味が出るような嫌悪を抱く文章を書く人の作品には二度と触れません。
基本的に綺麗な世界、つまり、その作者様の人間性のことですが、触れてfateの‘闇’がそれだけで薄くなるような気がする(←それは気のせいだ!!!)ようなモノに惹かれるのです。
つまり、何を言いたいのか?
ラストがまぁまぁ平穏に終わるものと、徹底的な悲劇と、それはその作品に流れる空気が決めるもので、作者がいじるものではありません。あくまでfate作品についてですが。
fateはたまに、意図せず主人公を殺してしまって、ぎゃ~っ、なんでお前死ぬんだよ!!!という目に遭います。それはもう、作者ですら変えようのない運命がそこに流れているとき。助かったりしたら、物語のテーマ自体が揺らぐとき。
なので、これが悲劇で終わったらおかしでしょう!
という軽いモノは、まぁまぁ…という状態で終わらせることが多いです。特に、これは‘遊び’感覚だったので(^^;
あ、こんなところでネタばらし…。
でも、もう最後までupしましたので~(^^;

ここまで真面目についてきてくださいまして、ありがとうございます。
だから、しょーもないって…(--;

#146[2011/10/17 07:39]  fate  URL 

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#156[2011/10/18 19:28]     

limeさまへ

共感、ありがとうございます(^^)
そして、お気持ちよく分かります。
作品って、小説に限らず、ものすご~くその人自身が出ますよね。絵でも音楽でも、その他どんなジャンルでも。 
最近、尾崎豊の最後の小説、というものを中古屋で買って読んだのですが、小説も入っていましたが、エッセイみたいなモノが多くて、彼の生きざま、音楽に対する想い、それに触れたとき、とても衝撃を受けました。
何より、作品に込める想いがfateと似ていて、超!感動しました。
それから、有名になってしまったが故の苦悩とか、それは本当に有名人にしか分からない葛藤のようなものも。

その人の魂に漂う清らかなもの、清潔感とか熱意とか愛情。
それが綴られるモノでなければ、誰も救われやしません。
何のために世界を描くのか。
それを共通認識で持てる方との交流は素敵です。
今後とも、よろしくお願いいたします(^^)

#158[2011/10/18 20:34]  fate  URL 














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