夕方になって、俺はふらふらと表へ出た。どこへ行こうという当てがあった訳でも、何をしようと思った訳でもない。いや、どこかで真珠を探していたのかも知れない。
車に乗って、知らず知らずに海へ向かっていた。
真珠と出会ったあの海小屋へ向かう道を。
なんとなく、健二の家の様子を覗い、付近の様子を覗い、次第に辺りが薄闇に包まれる頃、俺は海小屋に着いた。車を降りて、明かりのついていない暗い小屋の戸を開ける。人の気配を探ってみるが、そんなものはなかった。
俺はとぼとぼと海へ向かう道を歩き、あの崖まで降りてみた。
真珠が薬を飲んだ、あの岩場へ降り立つ。そこに立って海を見つめると、不意に寂しさがこみ上げてきた。
いくつもの真珠の表情が浮かんだ。
俺の言葉に凍り付いて怯えた彼女の顔、俺が名乗ったときの奇妙な表情、キスしたときの驚いて固まった幼い顔。真珠は、俺が幼い頃に出会ったときのまま、姿は大人になってもその心はまったく無垢な少女のままだった。
それに比べて、俺はスレた大人になってしまっていた。世の中をひねて見つめ、感動を忘れ、人を信じることを諦めていた。
真珠は、そんな俺をそれでも一生懸命愛そうとしてくれたのだろうか。
思い出して欲しかったのだろうか。
二人が交わしたかけがえのない‘やくそく’を。
辺りが闇に沈むまで、俺はそこに佇み、そして、引き返した。
もうすぐ後期の授業が始まる。
ひと夏の‘奇跡’は、終わりを告げようとしていた。
車に乗って、知らず知らずに海へ向かっていた。
真珠と出会ったあの海小屋へ向かう道を。
なんとなく、健二の家の様子を覗い、付近の様子を覗い、次第に辺りが薄闇に包まれる頃、俺は海小屋に着いた。車を降りて、明かりのついていない暗い小屋の戸を開ける。人の気配を探ってみるが、そんなものはなかった。
俺はとぼとぼと海へ向かう道を歩き、あの崖まで降りてみた。
真珠が薬を飲んだ、あの岩場へ降り立つ。そこに立って海を見つめると、不意に寂しさがこみ上げてきた。
いくつもの真珠の表情が浮かんだ。
俺の言葉に凍り付いて怯えた彼女の顔、俺が名乗ったときの奇妙な表情、キスしたときの驚いて固まった幼い顔。真珠は、俺が幼い頃に出会ったときのまま、姿は大人になってもその心はまったく無垢な少女のままだった。
それに比べて、俺はスレた大人になってしまっていた。世の中をひねて見つめ、感動を忘れ、人を信じることを諦めていた。
真珠は、そんな俺をそれでも一生懸命愛そうとしてくれたのだろうか。
思い出して欲しかったのだろうか。
二人が交わしたかけがえのない‘やくそく’を。
辺りが闇に沈むまで、俺はそこに佇み、そして、引き返した。
もうすぐ後期の授業が始まる。
ひと夏の‘奇跡’は、終わりを告げようとしていた。
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