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Stories of fate


マーメイド・シンドローム(R-18)

マーメイド・シンドローム 22

 夜中にそっと、真珠が使っていた一階の和室を覗いてみた。

 たたまれた布団がそのまま置いてあって、彼女の服がハンガーに吊ったままになっている。そこに、ふと彼女の幻を見てしまう。あの、海で出会ったときそのままの純粋な笑顔で、きらきら光る瞳で。

 あのとき、俺は全身で君が好きだと伝えていたんだろう。
 それは、恋とかそういうものではなかったかも知れないが、あのとき感じた好意ほど強く純粋な想いはなかったというくらいの勢いで。

 だから。
 俺は、今まで付き合ってきたその辺の女の子たちのようには、真珠に簡単に手を出せなかったのだ。無意識の中で、幼い日の崇高な好意の中で、彼女の存在はずっと生きていた。犯しがたい神聖なものとして。



 
 その夜、夢をみた。

 真珠が、誰か男と歩いていた。その男の腕に腕を絡め、にこにこと相手を見上げている。その笑顔が眩しかった。真珠、と声を掛けてみても、彼女は俺の方を見なかった。

 代わりに男が、怪訝そうに俺の方を振り返った。

「健二?」

 俺は、そいつに叫んだ。
 いや、その男が本当に健二だったのか分からない。しかし、彼は俺を侮蔑的な目で一瞥すると、何も言わずにふいと前を見て、そして、真珠の肩を抱き寄せた。

 真珠は後ろ姿で、彼に甘えていた。
 その途端、今まで感じたことのないどす黒いものが湧きあがってくる。その闇に翻弄されながら、俺は彼女に近づこうともがく。

 苦しくて、二人が憎らしくて、俺は自分の感情に愕然とした。

「真珠!」

 たまらず、俺は叫んだ。 
 二人はゆっくりと歩いていく。俺から遠ざかっていく。そして、最後に真珠の足はぼやけ始め、うろこが綺麗に光りだした。

「真珠、ダメだ!足が…っ」

 俺は慌てて駆け出した。見つかってしまう!彼女が人間じゃなかったことがバレてしまう!
 何かにつまずいて転びそうになり、一瞬、世界は暗転する。

 次の瞬間、水槽に閉じ込められた真珠が何かを必死に訴えている姿が目に入った。
 助けて、と口が動いている。

「待ってろ、真珠!今出してやる!」

 俺は、ガラスを叩く。体当たりをする。でもガラスは割れない。狭い水槽の中で、真珠は苦しそうだ。

「しっかりしろ!今すぐ出してやるから!」

 叫んでも、彼女には届かない。水槽の中で彼女はもがく。苦しそうに顔を歪める。
 そうか、人の姿でいるとき、彼女は水中で呼吸が出来ないのだ。

「真珠!」

 はっと気付くと彼女は虚ろな瞳でふらふらと水中を漂っている。

「真珠~っ!!!」

 俺は、自分の叫びではっと身体を起こした。一瞬、ここがどこなのか分からなかった。はあはあと肩で息をしながらゆっくりと辺りを見回し、夢だったのか、と思う。

 いつまでも、彼女の苦痛の表情が消えなかった。

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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ファンタジー小説

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