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Stories of fate


マーメイド・シンドローム(R-18)

マーメイド・シンドローム 18

 夕方まで、真珠は戻って来なかった。
 そろそろ帰ろうと考え始めた頃、ようやく俺は心配になってきた。

「俺、先に帰るわ~。真珠ちゃんも戻って来ないし。」
「あ?…ああ、気をつけてな。」

 女にはだらしないが、それ以外は素朴で単純な健二は、そう言って帰り支度を始めた。

「今度、またゆっくり彼女に会いに来るよ。」
「お前も、懲りないなぁ。」

 俺は半ば本気で呆れた。相手にされてないことが見え見えなのに。

「なんか、俺、あの子の雰囲気がすごく惹かれる。いや、本当だよ。俺、本気になったかも。」
「…え?」

 じゃ、と笑って去っていった健二を見送り、俺は不意に心中に複雑なものが湧き起こった。それをどう表現して良いのか分からない。何か、心の奥にもやもやしたような、いやひりひりした痛みというのか、そんな奇妙なものが貼りついたのだ。

 健二が帰ったら姿を現すだろう、と思っていたが、その日、真珠は夕暮れになっても戻って来なかった。太陽が海に沈む支度を整え、真っ赤な夕日となって海を染めても、真珠の姿はなかった。

「…真珠?いるのか?もう誰もいないから、戻っておいで。」

 俺は、真珠が消えた岩場の辺りに立って、海に向かって呼びかけてみた。

「おい、そろそろ帰るぞ?」

 波の音と、潮風のたなびく音だけが繰り返され、俺は不安になってきた。

「真珠?聞こえてないのか?俺、本当にもう帰るぞ?」

 段々、声は大きくなり、仕舞いに俺は彼女の名前を大声で叫んでいた。
しかし、遂に、夕日は海の彼方に姿を消し、辺りはうっすらと夕闇が下りてきた。どのくらい、俺はその場に佇んでいたのだろう?

 辺りが闇に包まれてしまう前に、片付けなければ、と俺は荷物をまとめ、それを抱えあげた。

「…小屋に戻って待ってみるか…。」

 俺は、独り言のように呟き、釣り道具と釣った魚を車に積み込み、身体ひとつで小屋へ戻る。一泊の予定だったから、食料はもうほとんどないし、水も用意していない。

 コーヒーを飲みながら、一人ぼうっと座っていると、なんだか段々腹が立ってきた。

 なんだって、俺は一人でこんなところにいなきゃならないのだ?と思う。そうだ、あの子は家に帰ったのかも知れないじゃないか。もともと、あっちの世界が本当なんだから。

 さっさと帰って着替えて釣った魚をさばいて母に食べさせてやりたかったし、観たいテレビもあった。
 ここで待つ必要なんてない。
 帰ろう。

 そう思って立ち上がりかけたとき、不意に小屋の扉が開いた。

「し…」

 真珠が、真っ赤に泣きはらした目で、俺に向かって飛びついてきた。

「ひどい、ひどいっ」
「な…っ、何が?」

 飛びつかれた勢いで、一瞬よろけながら、俺は何がなんだか分からなくて彼女の肩を抱いて言った。

「どうしたんだよ?どこにいたんだ、こんな時間まで。」
「どうして、待っててくれなかったの?ずっと探してたのに。ずっと待ってたのに。」
「はあぁ?」
「待っててくれると思ってたのに。」
「な…っ、何言ってるのさ?」

 真珠は顔をあげて俺をきっと見つめた。

「あそこに戻れば良いと思って、待ってたのに。」
「あそこって・・・釣り場?あんなとこ、いつまでもいられないだろ?もう、暗くなってきたし、今日は帰る予定でいたんだから。」
「そんなこと、聞いてない。だって、昨日は暗くなってもいたじゃない。」
「昨日は、泊まる予定だったから。・・・っていうか、なんで、君、さっさと帰って来なかったのさ?」

 真珠は、肩を震わせた。

「私は!イヤなの。久継さん以外、イヤなの!どうして助けてくれないの?」

 俺は、なんだか、ムッとしてしまった。何を言ってるんだ、と思った。俺にそんな義理はない。それに、誰のせいでこんなに帰りが遅くなったと思ってるんだ?

「君は、俺のなんでもないだろ?そんな言われ方される覚えはないよ。」
「愛してる、って言ったじゃない!」
「それは、君が言わせたんだろ?俺は、別に君を愛してるわけじゃない。」

 思わず言ってしまってから、俺ははっとした。彼女は大きく目を見開き、そして、ひどく驚いた瞳で俺を見上げた。その、悲しい色に俺の心臓は音を立てた。

「…愛して…ない?」

 俺は、どう答えて良いのか分からなくて、そして、その驚きとショックに茫然とした彼女の顔を見ていられなくて、一瞬、目をそらしてしまった。

 次の瞬間、ぱっと彼女は俺の腕からすり抜けて扉を開け、走り去っていく。

「真珠!」

 俺は叫んで、後を追った。

「真珠!待ってくれっ」

 しかし、駆けて行く彼女の姿はあっという間に闇に呑まれ、見失ってしまった。叫びながら暗闇に目をこらしても、もう彼女の姿はどこにも見えない。

「真珠っ」

 俺は、闇雲に走り回って、何かに足を取られてその場に転んだ。痛みに顔をしかめて身体を起こしたときには、周りには闇と静寂だけがしんと広がっていた。

 何故だか、俺はとても惨めな気持ちになった。
 …別に、俺は彼女を傷つけようと思ったんじゃない。
 それに、…だいたい、あれは本当のことだ。俺は、彼女を愛している訳じゃ…。

 不意に、彼女の甘えるような笑顔が浮かんだ。そして、愛してると言ってください、と嬉しそうに頬を染めたきらきらした瞳を。

「…どう言えば良かったのさ…。」

 俺は、誰にということなく呻く。

「俺は…。」

 俺は、彼女をどう思っていたんだろう?


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~ Comment ~


久継さん! 頑張って!
真珠ちゃんを救えるのは君だけなんだから!

あーあ・・・行っちゃったんだけど・・・
どうするのかな?

真珠ちゃん、どこに・・・?
#340[2011/11/03 18:54]  けい  URL 

けいさまへ

けいさん、まったく的を得たコメント感謝です。

そうなんですよ、情けないやつなんだよ、こいつはっ
話にならんっ

なんか、今、二人で映画を観ているみたいで、超! おもしろかったわ~(^^)

to be continued.
ですな。


#343[2011/11/03 19:54]  fate  URL 

久継は真珠に対して最初から、興味ないしどうでもいいって態度ですよね。でも海は好きなんだね^^釣り糸を垂れて一体化する高揚感を愛してるんだね^^

健二という男。男の人って普通にこんな感じですか?女性の前だと余計に気をひこうと下ネタばかり話すんじゃないかと思ってたけど。普通にこういう生き物ですか?(結構、不快だったりw)
#427[2011/11/08 18:12]  あび  URL 

あびさまへ

あびさん、コメントありがとうございます。

健二くんは、そうですね~
正直、久継に対するライバル的な挑発をしてくれる相手、くらいにしか考えていなかったので、彼とは対極の性格、と思ったらこうなってしまいました(^^;
確かに不快ですな。
すみません!

#430[2011/11/08 20:08]  fate  URL 

いやいや、謝っていただかなくても~(^^;
私の好き嫌いは置いといて。
男の人って普通にこういうもんなのかなって、素朴な疑問なんですよ。もちろん個人差はあるんでしょうけど。
女性のことはよくわかっても、男性のことはわからないから~どうしても、そういうとこ突っ込んで書けなかったりするんですよねぇ。
きつい書きかたしちゃってごめんなさい>w<
#434[2011/11/09 09:09]  あび  URL 

あびさまへ

あびさん、ご返信ありがとうございます!
いやいやいや。
fateには‘男’も‘女’も不可解です(--;
分かるのは…じゃなくて、好きなのは可愛い‘女の子’だけです♪
だから、それ以外は割とどうでも良い!(断言するなよ、この変態!!)

作品だろうと人物だろうと、究極は好き嫌いですよ、マジで。
良い作品だから好きとか評価が高いから良い! とはまったく思えない。fateにとっては好きか嫌いか。それのみ。
大事ですよ~! ‘好き’‘嫌い’。でも、嫌いな人間もいないと話が進まなかったりもするのであった…。
と、いうことで、やはり不快にさせてしまったことは申し訳ないです~



#438[2011/11/09 10:03]  fate  URL 

なんかロマンチックな展開になってきましたね。
素敵。
でも、何のことはない話なんですよね、これ?
本当に? 本当に?
嘘でしょ?
(読むの遅くてスミマセン)
#685[2011/11/25 20:03]  ヒロハル  URL 

ヒロハルさまへ

ヒロハルさん、

はい、これは、しょーもないお話です。
展開が、超! 予想出来て、そのまんまです(^^;
でも、後味はそんなに悪くないかと…


#688[2011/11/26 08:09]  fate  URL 














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