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Stories of fate


マーメイド・シンドローム(R-18)

マーメイド・シンドローム 13

 いつもの岩場に釣り場を選んで、釣りのセッティングしている横で、真珠は物珍しそうに俺にまつわりついていた。そこは、真珠を見つけた岩孔に通じる手前の大岩で、大抵、俺はそこで釣りをする。けっこう良いポイントなのだ。

 そう、あの日、何故ここを通り過ぎてわざわざあんな岩場に下りて行ったのか、俺にもその気まぐれの理由がよく分からない。

 遅れてやって来た健二は、俺の隣に場所を取り、何かというと真珠に話しかける。真珠も初めはイヤそうに避けていたが、次第に慣れてきたのか、少しは返事をするようになっていった。それで、俺はあとのことは彼ら自身に任すことにした。俺は魚を釣りに来たのであって、健二みたいに女を釣りに来たのでは、ない。

 ほぼ集中して釣りを始めてしまうと、雑音は雑音でしかなくなる。俺は、ただこうやってヒットの瞬間をぼうっと待っているのが嫌いではなかった。釣り竿を通して、釣り糸と海と俺は今つながっているのだ。覗いたって何も分からない海の中を指先で探っている。その地球との一体感のようなもの。

 潜っていたときとはまた違う海をなんとなく感じる。潜ることに限界はあるが、こうやって意識だけで捉えようとするときの海には限界がない。どこまでも深遠に意識を沿わせていくと、そこに漂う‘意識’を感じることがある。それは、魚たちの営み、海草の揺らめく様、或いは微生物たちの命の賛歌だろうか。

 それを捉えたと感じた瞬間の至福感を俺は愛する。
 そんな風に、釣りという行為は俺の中では神聖な儀式に相通じるものがある。
 しかし不意に、真珠の悲鳴で俺は現実に引き戻された。

「久継っ」

 振り返ると、健二が真珠のことを自分の車に連れ込もうとしていた。
 はあ…、とため息をついて、俺は釣り竿をその場に置いた。

 もみあっている二人に近づいて行くと、健二がそれに気付いてちょっときまり悪そうに笑う。真珠は、彼の腕を逃れて俺の胸にすがりついてきた。

「健二、別に俺は男女交際に関してとやかくは言わないが、無理強いはやめとけよ。」
「いや…、誘ったらここまで一緒に来たから、てっきり…」

 にやにや笑う彼に、真珠は本気で怯えているし、俺はなんだか面倒くさくなった。この二人に関わっていては、俺は釣りに集中出来やしない。

「浜辺に行っておいでよ、真珠。夕方までにここに戻ってくれば良いから。」

 俺がそう言って彼女の髪をなでると、真珠は俺を見上げ、こくんと頷いた。そして、えっ?と不思議そうな顔をしている健二の前をすり抜けて、彼女は俺たちですら知らないようなルートを取って、するすると岩場を下りて行った。

 それを目で追って、健二は慌てて彼女の消えた岩場を覗き込む。

「あの子って、この辺の子だったのかい?」

 真珠をすっかり見失ってしまったらしい彼は、呆気に取られて俺を振り返った。

「この辺…、まあ、そうだろうね。」

 俺は頭をかきながら釣りへ戻った。それを追いかけて健二はやってくる。

「おい、久継、あの子、お前の彼女とかじゃないんだろ?親戚か?」
「まさか。あんなのが親戚にいてたまるか!」
「でも、あの子、やけにお前に懐いているじゃん。」
「…なるほど。」

 なんだか妙に納得して俺は頷いた。そうか、捨て猫を拾って懐かれるのと似てるわ、確かに。

「すんげ~、可愛い子だよな!」

 はあ、と再度ため息をついて俺は友人を見つめる。

「騙されるなよ、あれは本当の姿じゃないんだから。」
「え?なんだよ、それ。」

 きょとん、と俺を見つめる彼に、俺は説明するのも面倒になって、いや、とだけ言ってまた視線を海に戻した。


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ファンタジー小説

~ Comment ~


健二・・・・・・手出すの早過ぎだろ。
同じ男として、節操のなさに呆れてしまいます。

まあ、久継も「あんなのが親戚にいてたまるか」なんて
冷たいですよね・・・・・・。
#632[2011/11/22 13:24]  ヒロハル  URL 

ヒロハルさまへ

ヒロハルさん、ちょっと笑わせていただきました。
何故か、fateのキャラは同性に嫌われます(^^; 特に男性キャラが男性に。ううむ、何故であろう???
は、良いとして。
久継の台詞の‘あんなの’とは、‘人魚’が親戚な訳ね~だろ! という意味であって、真珠がどうと言ってる訳じゃないんですね、一応。
実際、好みの女の子、な訳ですから。
そんなこと言ってる久継が、どうなっていくやら…

#634[2011/11/22 16:08]  fate  URL 














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