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Stories of fate


マーメイド・シンドローム(R-18)

マーメイド・シンドローム 7

「あの…」

 と細い声が真夜中に背後で突然聞こえ、俺は驚いて振り返る。
 白いシャツを着て、素足のままの真珠が、俺の部屋の扉の隙間から覗きこんでいた。彼女が寝ていたのは一階の和室、俺の部屋は二階だったのだから、わざわざ訪ねてきたらしい。

「どうかした?」

 俺は、まだ机に向かって、一応勉強をしていた。休み明けに提出するレポートに手を入れていたのだ。
 卒業したらどうしよう、という確固とした目標は実はまだなかったが、さすがに卒業だけはしようと思っていた。父や兄とは方向は異なるかも知れないが、俺も何かしら海に関する職業を探そうとは思っている。

 ただ、研究なんてものは性に合わない。きっと身体を使って何かを成し遂げていくような、実践的な職業になるだろう。

「あの、喉が渇いて…」

 真珠はどこか困ったように首を傾げる。

「え?ああ…。っていうか、勝手に何か飲んで良いよ。ジュースとか冷蔵庫に入ってるよ。」
「…冷蔵庫?」
「夕食作るとき、使っただろ?物を冷やす倉庫みたいなもんだよ。」

 真珠は、それでも、まだ困ったようにもじもじしている。
 俺は仕方なく、一緒に階下に下りていく。

「ほら、ここに…」

 と、冷蔵庫を開けたら、中にはミネラルウォーター一本ない。
 あれ?と辺りを見回すと、空のボトルがテーブルに並んでいた。

「…君が、飲んだの?」

 真珠は、小さくなって頷いた。

「もともと海生生物だから、水が余計に必要なのかなぁ?」
「…すみません。」

 俺は、ため息をついて時計を見た。

「何か買って来るって言ってもこんな時間だし、…君、水道の水は飲めないの?」
「水道の水?」
「そう、これ。」

 俺は蛇口をひねって水を出してみせる。

「それ、飲んでも良いんですか?」
「良いよ、塩素は入っているだろうけどね。」
「…えんそ?」
「まあ、飲んでみな。飲めるならいくらでも飲んで良いから。」

 俺は棚からグラスを取り出して水を汲んであげる。

 真珠はそれを受け取って、こくこくと飲み始めた。不純物を身体に入れるとどうにかなるのかな、と思って観察していたが、別にどうということはなかった。
 そういえば、普通に食事も取っていたんだから、水だけダメってことはないか。

「ありがとう。」

 真珠は飲み終わって微笑む。白い肌が妖艶に闇に浮かび上がり、俺は瞬間、背筋がぞくりとする。恐怖ゆえではない。むしろ…

「食事の味付けが、濃すぎるんじゃないの?」

 俺は、自分の下心を振り切ろうと、もうひとつグラスを出して水を汲む。

「…そうなんでしょうか。」
「君たちって、食事って海草を生で食べるだけ?」
「…時々。」
「じゃ、いつもは?」
「あまり、食べません。」
「へ?じゃ、どうやって生きてるの?」
「海水のミネラルを身体に直接取り込みます。」
「マジ?」

 真珠は微笑んだ。

「じゃ、今、こうやって俺たちに合わせて何か食べるのって苦痛じゃない?」
「いいえ。」

 真珠は少し考えて答えた。

「今は、私の身体は人間と同じです。食べて、排泄して、呼吸して、生きています。」
「あの、薬の作用で?」

 彼女は頷く。

「海に還るときの還元薬とか、持ってるのかい?」

 俺はふと余計な心配をする。

「大丈夫です。」

 真珠は、俺の目をすっと見つめて微笑んでみせた。
 

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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ファンタジー小説

~ Comment ~


ここまで読みました^^

海で助けた儚げな少女とぎこちない生活を始めた主人公の姿が面白いですね。
R18ということで、いつエッチになるのかドキドキしながら読んでいます。
#1915[2012/03/20 08:52]  沢渡まゆ  URL  [Edit]

Re: ここまで読みました^^

沢渡まゆさん、

おお、ご訪問ありがとうございます(^^)
fateの世界はけっこう不穏なので(^^; ご注意を!
これは、大人の童話…的な現代版『人魚姫』のフザケたバージョンと言いますか…
はははは。
(笑って誤魔化す(--;)

R指定作品ではありますが、これは順当恋愛…だと思うので、まぁまぁ大丈夫かとは思います。
(つまりは大丈夫じゃないのもあります(^^;)
しかも、fateは何気に恋愛欠陥生物なので、マトモな恋愛は描けないっす。

白黒バージョンの沢渡まゆさんの作品にもまたお邪魔いたします。
やはり、fateとしては黒の方が好みかも。
へへへへ。
(すみません(--; 変なので気にしないでください…)
#1916[2012/03/20 11:29]  fate  URL 














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