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Stories of fate


背徳の奏 ~漆黒と深紅のモザイク~

背徳の奏 (キリア) 14

 ふと人の気配に気付いて、宰は目を開けた。

 ベッドの傍らに、少女が立っていた。ぎくり、と一瞬身体が強張り、宰ははっきりしないままの頭を振って彼女を見上げた。つい先日雑貨屋で手に入れた古い衣装をまとって、少女は空気のようにすうっとそこに居た。

 誰かが、部屋に入ってくるまで気付かなかった?
 愕然とした。今までそんなことはなかった。ミラと一緒にいても、彼女が目を開けた気配すらすぐに気付いたものだ。

 彼女の瞳に赤い色は浮かんではいなかった。ただ、奥に揺らめく炎を感じられるだけだ。
 気配を消して近づいていたのか・・・。
 そして、宰は、自分が助けたこの少女には気を許してしまっているらしいことを知る。

「キリアか。」

 ため息をついて身体を起こすと、彼女は意外そうに彼を見つめ、その瞳に不意に赤い炎が揺れた。

「どうして、分かったの?」
「この子が男の寝室に勝手に入り込んだりはしないよ。」
「ああ、そうね。」

 キリアはどこか憮然とした調子で彼を見下すように見つめた。その手に、彼のナイフが握られている。

「その子の身体を使って人殺しはやめろ。」

 明らかに、彼女はムッとしていた。

「・・・ずいぶん、この子が大事なのね。」

 言われて、宰はぼんやりと王女を見つめ返した。それまで感じていた刺すような‘殺気’は感じられなかった。ただ、冷たい空気がさらさらと流れている。氷のカケラが流れに乗って、彼の周囲を渦巻いているような感覚だ。

「依頼されていた仕事を片付けたら、俺は、お前の望み通り死んでやる。だから、その子をもう解放してやってくれ。」

 宰は静かに言った。心からそう思った。たかが女のことで、自分がこんなにも打ちのめされ、憔悴するとは彼自身考えてもみないことだった。
 ミラは、宰にとって、自分が人間であることを確かめられる最後の砦だったのかも知れない。それを、今さら気付いた。

「バカね。そんなこと、信じられると思うの?」
「・・・そうだよな。」

 宰は力なく笑う。

「ねえ・・・」

 キリアは、宰の脇にそっと腰掛けて、怪しい光を宿した瞳で彼を見上げた。

「最後に、私を抱いてみる気はないの?」

 宰はちらりと彼女を一瞥して、ため息と共にだるそうに答えた。

「殺した女を?そんな趣味はない。しかも、それはお前の身体じゃないだろう?」
「私の身体を取り戻してくれるなら、そうしてもらいたいわ。」

 一段、彼女の声は冷たくなった。

「無理を言うな・・・。」
「だったら、最後の望みくらい叶えてくれても良いじゃない。」

 ようやく、宰は王女の顔をまっすぐに見つめた。

「本気で言ってるのか?」
「本気よ。」

 キリアも、宰の瞳をまっすぐに見つめ返した。炎のように赤い瞳で。

「・・・バカなことを・・・。」

 幾分、うろたえて宰は視線をそらす。

「本気よ。」

 彼女は繰り返した。


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ホラー・恋愛

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