FC2ブログ

Stories of fate


背徳の奏 ~漆黒と深紅のモザイク~

背徳の奏 (ミラ) 10

 数日後の昼前、ミラを訪ねてみると、彼女は茫然と家にいた。憔悴した彼女の表情に、宰はちくりと胸が痛んだ。あのあと、彼女は知ったのだろう。匿っていた王子の死を。
 残る二人の内、一人はどうやら国外へ逃れたらしいと店主から連絡が入っていた。マドラがうまくやってくれたようだ。

 あと一人をどうやって探し出すのか宰は思案に暮れ、とりあえず、ミラに再度希望を託してやってきたのだ。
 彼を出迎えたミラは、目の前に立つ男をゆっくりと見据え、小さく息を吐いた。

「珍しいわね、どうしたの?」

 大抵、月に一度、忙しいときには数ヶ月に一度しか訪れない宰が数日の内に二度も訪ねてきたので、彼女はどこか訝しげだ。

「俺があまり頻繁に出入りすると、君も狙われたりするかい?もし、そうなら・・・」
「違うわ。・・・無事で良かった。ただ、それだけよ。」

 そろそろ狩られ尽くして、国内に滞在している外国人はいなくなった。本国から船を出して救出に訪れた国もあったし、革命派と取り引きしてお金で自国民の身柄を買い取っていった国もある。残っているのは、何らかのいわくのある人材だけだ。宰のように。初めの内は、外国人を匿っているといろいろ不都合が生じていたが、もう、そういう気運もなくなってきた。

「どうかしたのかい?」

 分かっていても、そう声を掛けたくなるくらい、ミラは疲れ切っていた。だるそうに宰を家の中へ招きいれ、いつものハーブティを淹れる。その動きが病人のようだった。
 奥から、母親が顔を出し、「お客さんかい?」と覗き込んだ。

「こんにちは。」

 たまに顔を合わせている彼は、ごく普通に彼女に声を掛けた。宰が外国人であることを残念がっている母親は、ああ、と声を漏らして自室へ引き上げていった。娘も良い年だ。相応の相手と早く身を固めて欲しいのだろう。彼女の中には、その相手には外国人は含まれていないのだ。

 テーブルに紅茶のカップがことん、と置かれ、宰は細い指がすっとそれを彼の方に差し出すのを見た。そして、その指が微かに震えているのを。

 いつもはテーブルにカップを置いてからポットの紅茶を注ぐ彼女が、今日に限って中身を注いでから彼の前に出した。

 普通の人間なら特に気に留めないことだ。しかし、宰にはそれは大きな意味があることとして感じられた。
 つまり、カップの中に、紅茶以外の成分を混入させることも可能なのだ。

「・・・そうか。」

 宰はカップを手に取った。
 正体がバレたのか・・・。騙していたのはお互い様か・・・。

 自嘲的な気分に陥った。入っているのは‘毒’か、‘睡眠薬’か。あと一人残っていることを考えると、睡眠薬の可能性も捨てきれないな。俺に、依頼主を吐かせるつもりだろう。

 分かっていて、何故、そのまま飲もうとしたのか、彼にもよく分からなかった。
 カップを口元に運んで一気に飲み干したとき、目の前のミラの表情が悲痛に歪むのが見えた。彼女の目は、後悔にも似た揺れる切ない思いを宿していた。

 それだけで、もう満足だ。君の心の名に、僅かでも残れるなら・・・。
 ゆっくりと辺りが暗くなる刹那、宰は思った。



関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png 紺碧の蒼
もくじ  3kaku_s_L.png 真紅の闇
もくじ  3kaku_s_L.png 黄泉の肖像
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 2
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 3
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 4
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 外伝集
もくじ  3kaku_s_L.png 蒼い月
もくじ  3kaku_s_L.png 永遠の刹那
もくじ  3kaku_s_L.png Sunset syndrome
もくじ  3kaku_s_L.png 陰影 2
もくじ  3kaku_s_L.png Horizon(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png Sacrifice(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png 閑話休題
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  ↑記事冒頭へ  
←背徳の奏 (亡霊) 9    →背徳の奏 (ミラ) 11
*Edit TB(0) | CO(0)
ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ホラー・恋愛

~ Comment ~















管理者にだけ表示を許可する

~ Trackback ~


  ↑記事冒頭へ  
←背徳の奏 (亡霊) 9    →背徳の奏 (ミラ) 11