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Stories of fate


背徳の奏 ~漆黒と深紅のモザイク~

背徳の奏 (亡霊) 7

 夜中過ぎに仕事に出かけることに決め、宰はすべての用意を整え、家を出る。そして、夕方確認した家の前に立った。
 すべての家の明かりは消え、月明かりだけがこうこうと町を照らしていた。

「少し、月が明るすぎるな・・・。」

 宰は呟く。彼自身の影が、くっきりと長く道に落ちていた。まだ明け方までには間がある。今が一番闇の濃い時間の筈なのに、西に傾いた月の威力はまだ衰えない。

 月の魔力が作用する夜は、あまり仕事には適していない。
 しかし、急ぎたい気持ちが勝った。いつまでも請けた仕事を抱えているのは気分の良いコトではない。しかも、今回はミラを利用しての仕事だ。彼女にバレて二度と協力を得られなくなるのは避けたい。さっさと済ませるに越したことはなかった。

 ミラとの情報源としての付き合いは、もう随分長い。宰がこの国に流れてきて以来だ。5年になるだろうか。

 家の庭に入り込み、そこにも人の起きている気配がないことを確認する。窓を覗き込み、それが寝室ではなく、リビングらしいことを見て、彼は慎重にその窓を開ける。案の定、内側に泥棒避けのストッパーがかかっていて途中で動かなくなる。その金具を、用意してきた工具で外していく。狭い窓の隙間から指を滑り込ませ、指先の感覚だけでコトを行うので時間がかかってしまう。それでも、しーんとした静寂の中に、派手な音を響かせる訳にはいかない。

 じりじりと汗をかきながら、彼はやっと金具をひとつ外した。ことり、と金具が窓枠にぶつかった音がして、ぎくりと冷や汗をかく。息を殺して様子を窺ったが、誰かが起きてくる気配はなかった。

 両脇を固めている金具の、もう片方を外しにかかる。
 不意に、庭で物音が聞こえた。人の足音か?ひやりとして振り返ると、真っ黒な猫が瞳を光らせて通り過ぎていった。

「びっくりさせんな・・・。」

 宰は大きく息を吐く。

 やっと金具を外し終え、宰は再度慎重に窓を開き始める。窓枠がこすれあって、微かに音が響く。その音にびくびくしながらも、彼はそうっと窓を全開し、周囲を見回して異常のないことを確かめ、するりと窓の中に消えた

 家の中は静まり返っている。
 人の起きている気配はなかった。気配を消し、息を殺してそうっと奥へ向かうと、廊下の奥に寝室らしき部屋がふたつ並んであり、そのひとつに寝ずの番をしている筈の二人の男達が、扉の前で居眠りをしているところを見つけた。一般人が寝ずの番人を必要とする訳はない。

 そうか、ターゲットはあの部屋の中だ。
 隣の部屋にも人がいるらしい。恐らく、この家の本来の持ち主であろうか。
 うつらうつらしているだけの二人は、近づいたら目を覚ましてしまうだろう。

 宰は麻酔銃を構えた。かなり強烈な即効性の麻酔だ。少しは後遺症的なものが残るかも知れないが、殺すよりはマシだ。彼らは金で雇われただけ、或いは、王室付きのボディガードなのだろう。そう、マドラと同じだ。

 ぱすっ、ぱすっと小さな音がして、男たちの胸にそれは刺さった。
 うっ、と呻き声が聞こえて、宰は咄嗟に身を隠す。体内に注入されたその薬品は血流に乗ってあっという間に全身を巡る。届いた周囲の筋肉を麻痺させながらどんどん意識レベルを落ち込ませていく。

 何が起こったのか分からない二人は、朦朧としたまま、崩れ落ちたようだ。
 顔を覗かせてみると、二人の男が折り重なるように床に倒れ、眠っていた。

 宰は扉の前の二人を避けて、中に踏み入る。そして、扉の開いた気配に、驚いてベッドから起き上がった相手の顔をライトで照らして確認した。間違いない。王子の一人だ。みるみるひきつっていく男に、声をあげられる前に銃で撃った。サイレンサーを使用しているので、音はそれほど大きく響かなかった筈だ。

 雨戸もカーテンも固く閉じられているこの部屋。外へ音はそれほど漏れていない筈だった。
 長居は無用だ。気配に気付いて隣の部屋の人間が起きてくるかも知れない。

 血しぶきをあげる男の最後を静かに確認し、宰は今きた経路を引き返す。眠っている男たちをまたぎ越え、リビングへ向かった。そして、外した金具をポケットにねじ込み、窓を抜けて外へ降り立つ。そうっと窓を閉めて何事もなかったようにそのまま庭を横切る。

 不意に、さきほどの猫が目の前を横切る。
 ふと視線を猫に落として、宰は背筋が凍った。
 ちらりと彼を見つめたその猫の瞳が赤く光っていたのだった。


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