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Stories of fate


業火 ~hellfire~(R-18)

業火 19

「流産したんだって?」

 基は葵の身体を抱き起こし、背後から包み込むように抱いて、彼女の下腹部を手の平で触る。

「・・・え?」
「さっき、由美ちゃんが言ってたろ?」

 葵は、ぼんやりと先ほどの会話を反芻する。

「分からない。・・・生理かもしれないし。」
「どう違うのさ?」
「・・・よく、分からない。」

 いつになく基が優しくて、葵は少しドキドキしていた。

「俺の子を生めよ。」

 ぽつりと基は言う。それは、いつか耳元でささやかれた台詞。だけど、それが本気だったとは彼女は考えていなかった。葵は驚いて彼の顔を見上げる。

「家族を・・・二人で作って、一緒に暮らそう。」

 言葉にして、初めて基は自分が本当に望んでいたことを知った。
 そうだ、復讐ではない。・・・欲しかったのは、‘家族’だったんだ。



 
 自分の手には負えないと、泣く泣く由美は両親に訴えた。
 基を姉から引き離さないと取り返しがつかなくなる、と。

 初め、父も母も、まったく信じられないようだった。当然だ。何故、双子の姉弟が?
 彼らは誰も、基がどんな扱いを受け、どんな生活をしてきたのか、まったく知らない。今回、元夫から息子を預かって欲しいと依頼を受けた時も、母親はさしたる疑問を抱かなかった。1年限定の海外。その間、基が高校を卒業しそびれるなんて、確かに悔しいだろうと理解出来たのだ。

 母は、葵の写真をずっと送り続けていたし、基が葵を姉だと認識していただろうことを分かっていた。そこに落とし穴があったなどと、誰が想像出来るだろうか?

「・・・由美から聞いた話は・・・本当なの?」

 夕食の前に、二人は母に問い詰められる。まだ父親は仕事から戻っていなかった。母が基の部屋を訪ねたとき、葵は彼の腕に抱かれたまま、眠っていた。流産だったのか生理だったのか、いずれ、出血が大量だったことで、少し貧血気味だったのだろう。

 基は、抱いていた葵の身体をゆっくりとベッドへ横たえる。すると、葵は基の気配が遠ざかったことで、はっと目を開けた。

「・・・お母さん?」

 寝ぼけた目で、葵は母を見上げる。

「二人が仲が良いことは嬉しいけど・・・、葵、あなた、流産・・・って本当なの?基の子?」
「子どもが出来たんだとしたら、間違いなく俺の子ですね。」

 基は、葵の横に腰掛けて淡々と答えた。瞬間、母が青ざめるのを彼は冷然と見つめる。葵はどこかうろたえて二人を交互に見た。

「あの・・・」
「葵、・・・それは本当なの・・・?」

 母の声は震えた。その場に茫然と立ち尽くした彼女は、それでも、どうにか平静を保とうとしている。

「でも、ただの生理かも・・・」
「葵。」

 葵は、怯えた瞳で母親をそっと見上げる。

「・・・お母さん、ごめんなさい。私・・・基が好き。」

 葵の言葉に、基は意外そうな視線を彼女に向けた。葵は静かに基に視線を合わせ、二人は見つめあう。

「好きでも良いわ。でも、セックスは許されないことよ。子どもを作ったり結婚したり出来ないのよ?あなた達は姉弟なの。分かってるよね?」

 思わず、興奮して母は叫ぶように娘を見る。そして、基を。

「葵、それから基もお願いよ。もうこんな心配は二度と掛けないと約束して。もう、二人とも大人なのよ?セックスをすれば子どもが出来るわ。それは生まれてはいけない子なのよ。求められない子を、不幸な子を作ってはダメ。」
「求められない子、そんなものがあるんですか?」

 基の冷たい声に、母は、え?という視線を向けた。

「求められずに生まれた子には生きる権利はないと?幸せになる権利も、家族を持つ権利もないと?」
「そんなことを言ってるんじゃないわ。不幸になることが分かっているのに、そんな関係を続けることは不毛だと言ってるの。」
「どうして分かるんです?不幸になることが?じゃあ、あなたは、俺を引き取らなかったとき、俺がどうなるか分かってましたか?」

 母親は、彼の、静かなのに激しい怒りを含んだ低い声に愕然とする。

「どういうことなの?・・・基、あなたは・・・お父さんはあなたを愛してくれなかったの?」
「一度も。」

 基は素っ気なく答える。

「でも・・・」
「でも、今まで生かしてもらった。そうです。だけど、それだけでした。」

 基の言葉に、葵も驚いて言葉を失っていた。

「俺に、葵をください。俺にとって家族として夢みていたのは葵だけです。」
「・・・それは、葵はあなたの家族よ。でも、それは姉弟の関係なのよ。あなたも葵も、それぞれ別の人を、生涯の伴侶を見つけて、幸せになることが・・・」
「俺は、葵以外要りません。」
「違うわ、基。それは、そういう風に今思いこんでいるだけよ。いつか分かるわよ。」
「じゃあ、分かるまで、俺に葵をください。」
「基・・・っ」

 母親は悲鳴に近い声をあげる。彼の中にある狂気を、その病の深さを初めて目の当たりにしたのだ。爽やかな青年を演じていた息子の、真の姿を彼女は茫然と眺める。

「・・・私が、二人とも引き取って育てていれば、こんなことにはならなかったのね。」
「まったく、その通りですね。」

 基はにこりともせずに言い放った。

「だけど、そんなことはもう良いんです。俺は葵が欲しい。それだけです。」



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