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Stories of fate


業火 ~hellfire~(R-18)

業火 17

 翌日、由美は基の部屋から出てくる姉の姿を見た。妹の姿などまるで目に入らないような、どこか虚ろな葵の表情。そして、昨夜、一晩中続いていた姉の喘ぎ声も聞いていた。

 由美は初め、その声の意味が分からなかった。そして、それが姉の声だと分かった瞬間の衝撃。
 思わず、部屋の扉を開けて、それがどこから響いてくるのかを確かめた。

「そんな・・・、まさか・・・。」

 明らかに、基の部屋から漏れ聞こえる切ない声。そして、葵、と呼びかける基の声が微かに聞こえた気がした。

「姉さん?・・・お兄さん?」

 だって・・・。二人は、双子なんでしょう?母さんの生んだ、姉弟なんでしょう?
 そんなバカなこと・・・。
 由美は驚愕の表情で基の部屋の扉を凝視し、そして、二人の姿を想像し、ぞっとする。

 そうっと扉を閉めて、自室に戻った由美は、いったいどうしたら良いんだろう?とぐるぐる考える。両親に相談する前に、自分がなんとか出来ないだろうか、と。

 もし知られたら、父も、まして母は相当なショックを受けるだろう。倒れるかも知れない。
 なんとかしなくては。

 由美は、震える身体を抱きしめて考え続けた。
 



 それぞれ受験を済ませた双子は、卒業まで時間が空き、由美は相変わらず部活動に忙しい毎日だ。

 年度末に向かって仕事が忙しくなった両親も、娘の変化に気付いてはいても忙しさにかまけてそれに対する処置を出来ずにいた。それほど体調が悪いようではなく、沈んでいる訳でもない。ただ、どこか様子がおかしい。ぼうっとしていたり、口数が減ったり、変に高揚していたり・・・。

 受験が終わってほっとして、恋でもしているのだろうか?彼らにはその程度のことしか思いつかなかった。
 生理が大分遅れてひやりとし、いつもと違う痛みを下腹部に感じたその日、葵は大量の出血があった。

「姉さん・・・顔色、悪いよ?」

 その夕方、トイレから出て来たところを、葵は由美に呼び止められた。まだ、両親は帰宅する時間ではなく、その日、姉の様子が気になり、由美は部活動を休んで早めに帰ってきたのだ。

「・・・ああ、ごめん。大丈夫よ。」

 そのまま妹の脇を通り抜けようとした姉に、由美は聞く。

「姉さん、生理遅れてたの?いつも、私とすれ違いだったのに、今月は、今、なの?」
「ああ・・・うん。そうみたい。」

 由美は、あれからいろいろ本を読んだり、保健室の先生にそれとなく聞いたりして調べていた。妊娠について。その徴候、危険性について。

 様々なことを考え合わせて、妊娠は時間の問題だと由美はぞっと背筋が寒くなった。姉は、週の半分は基の部屋を訪れているようなのだ。

 姉の、まるで自覚がない態度に、由美は唇を噛み締めた。

「姉さん、それって、生理じゃないよ。流産したんじゃないの?」
「・・・え?」

 初めて葵は妹の顔を見つめた。

「妊娠ごく初期に流産するって、どういうことか分かる?胎内に宿った子が成長も出来ないくらい奇形児ってことだよ?遺伝子に異常な欠陥があるってこと。つまり、血が濃いから。・・・姉さん、これ以上こんなこと続けたら、身体が壊れてしまうよっ?」

 葵は茫然と妹を見つめる。
 彼女の口から出てくる言葉の数々を、まるで遠い世界の御伽噺のように眺めてしまっていた。

「姉さん、しっかりしてよ!母さんを悲しませたいの?」

 まるで子どものようにぼうっとつっ立っている姉の両肩にすがりつくように、由美は叫んだ。

「お願い。もう、やめて。それって、どういうことか分かってるの?」

 涙を零す妹の顔を見ても、葵にはまるで他人事だった。ゆっくりと妹の手を解き、彼女は曖昧に微笑む。

「うん、大丈夫。」
「姉さん!本当に分かってるの?このままだったら、本当にどうにかなっちゃうよ?あたしだって、いつまでも黙っていられない。母さん達に知られる前に・・・」

 そこまで言って、由美は、姉の背後に基の姿を見つけてぎくりとする。基は廊下の端からゆっくりこちらに歩み寄ってきた。その氷のような瞳に、由美はぞっとする。思わず、葵の身体を抱き寄せるようにその腕にしがみつく。

 ごく普通に二人の近くまで歩いてきた基は、ふわりと柔らかい笑顔を作って二人を見下ろす。

「話しは済んだ?」

 ぐい、と葵の腕を引き、基は更に彼女の背中に腕をまわして抱き寄せる。姉を奪われて、由美は、きっと基を睨みつける。

「お兄さん・・・、姉を解放してください。」

 葵は、基の腕に抱かれてどこかまどろんだような表情を浮かべていた。

「どういう意味?」
「姉さんは、体調がおかしくなってます。これ以上・・・その・・・姉を苦しめるのはやめてください。両親が知ったら悲しみます。それに、お兄さんのご両親だって・・・!」
「俺は、別に葵を苦しめてなんかいないよ。葵は喜んで自分から俺に抱かれているだけだよ。」

 由美はかああっと頬を染める。

「そっ・・・、そんなことある筈ないでしょう!今、姉さんは正気じゃないのよ!ずっと、まるで夢の中にいるみたいにぼうっとしてて、・・・お願いです。姉を・・・返してください。」

 くすりと基は笑う。

「それは君が決めることじゃないだろ?」
「姉さんは今、判断出来る状態じゃないから・・・っ」

 基は、これ見よがしに由美の前で葵の髪にキスを落とし、どこかふら付く彼女の腰を抱いてくるりと由美に背を向ける。

「待ってよ!姉さんをどこに連れていく気なの?」

 背後からの由美の叫びを無視して、基は二階へ続く階段を上り始める。
 基の腕に捕われたまま、頭の上で交わされる二人の会話を聞きながら、葵は妹の悲痛な叫びをぼんやりと理解はしていた。頭ではよく分かる。

 だけど、葵には、そのとき基に逆らう何もなかった。男に力に抗し、逃げるだけの腕力・体力も、逆らうだけの気力も、そして、彼から与えられる快楽をはねつけるだけの強靭な精神も。
 案の定、基の部屋に連れ込まれた葵は、服のまま彼のベッドに押し倒され、唇を奪われて目を閉じる。

「ん・・・っ」

 いつもながらの巧みな舌使いに、葵の意識はすぐに混濁し始めた。

 途中で、不意に口を解放した基が、じっと彼女を見つめている気配を感じ、葵はゆっくり目を開けた。両手に絡みつくように合わされた基の手の平が、しっとりと汗ばんでいるように感じられる。

「可愛い葵。・・・君は、俺のものだよね?」

 いつもの自信に満ちて傲慢な顔ではなかった。基の目は、捨てられそうな子どものような心細い色を宿していた。

「・・・?」
「俺のものだ。」

 不意にぎゅうっと抱きついてきた基に、葵は心がきゅんと痛んだ。

「・・・どうしたの?」

 背にきつくまわされた腕、そして、熱い息遣い。葵は少し甘い気持ちになって、自由になった手をふわりと彼の頭を抱く。

「私は・・・基のものだよ。」
 


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