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Stories of fate


永遠の刹那

永遠の刹那 (仕事裏表) 17

 アパートのいつもの駐車場に車を停めて、彼は、後部座席に置いてあった私のバッグを取ってくれる。

「あ、ありがとうございま・・・」

 言い掛けて静を見上げた途端、不意に唇をふさがれた。驚いて固まった私に、触れただけの軽いキスを落とした彼は、にっと笑って髪を撫でる。

「寝込みなんか襲わなくても、襲おうと思えば、本当はいつでもどこでも可能なんだけどね。ま、もう少し待ってみるよ。お嬢さん。」

 言葉と裏腹な爽やかな笑顔を浮かべて、彼は、じゃ、おやすみ、と微笑んだ。

「・・・おやすみなさい・・・。」

 車を下りて、茫然と私は答える。
 びっくりしただけで、別に、イヤではなかった。
 イヤではなかったよ。
 だけどっ!
 私だって普通に‘恋’をして、普通に心ときめかせて、普通の人とお付き合いがしたいだけなんですけどっ

 去っていく車を見送って、私は心の中で叫ぶ。
 いや、確かに静を嫌いか?って聞かれれば、そんなことはないと思う。

 仕事をしている姿は尊敬するし憧れるし、格好良いと思う。うん、ほんとに。決して仕事に向かう姿勢はいい加減じゃないし、気持ちが良い。

 毎日顔を突き合わせて仕事をして、更にこうやって一緒に出かけても、何故かけっこう会話がはずむことも不思議だ。そして、その空間を何気に私も楽しんでいることは否めない。

 だけど、なんというのか、静の強引さというのか、いや、違う。なんだか、理不尽さを感じて仕方がない。
 くぅぅっ、なんだか、悔しい。だって、そうだよ、どういう立場を取ったって、私は静に逆らえないんだもの。

「はあぁ・・・っ」

 ため息が出て、私はとぼとぼと階段を上った。
 それがどうした?と言われたら、私にもよく分からない。
 彼を拒む理由なんて、確かにない気もする。
 だけど、なんだろう?何がこんなに私を引き止めるんだろう?

 部屋の扉を開けて、電気を点ける。ぱあっと中が明るくなり、次第に馴染んできた室内の様子にどこかほっとする。

 ・・・いや。
 本当はどこかで分かっている。

 静は、言葉遣いはいい加減でかなり乱暴だけど、物腰や考え方は妙に大人で品が良い。それはきっと生まれ育った環境から来るものだ。

 彼自身が言っていたように、彼は実際かなり良いところのお坊ちゃんなんだろう。だいたい、あのトシで、一軒屋を持っているなんて有り得ない。確かに仕事は出来るけど、医者と違って、あの治療院の仕事だけで家を建てられるとは思えないし。

 世界が違いすぎる。
 私には、この身ひとつ。他にまったく何もない。いや、むしろ、借金だってまだ残っている。
 あまり、深い関わりを持ちたくないのだ。いつか傷つくのは自分だ。私は・・・その傷の痛みを知っている。
 ・・・が、そこで傍と思い出した。

「こ・・・婚姻届!あれ、そういえば、どうするつもりよっ」

 あんなのが彼の手にあったら、私は他の人と恋も出来ないじゃないっ



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[コメディ・恋愛

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