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Stories of fate


永遠の刹那

永遠の刹那 (結婚記念日) 4

 途中で、彼は区役所の前にタクシーを待たせて、中に何かを取りに行った。もう5時は回っていたと思うが、まだ開いているんだろうか?やがて、静は封筒を抱えて戻ってくる。

「ごめん、ちょっと必要書類を。」
「はい。」
「治療院に着いたら、書いてもらう書類がけっこうあるよ。雇用契約書とか、アパートの賃貸契約書。それから、俺の方で従業員を届けなきゃならないしね。印鑑ある?」
「あ、あります。」

 私はふと心配になる。

「あの・・・保証人とか・・・身元引受人とか・・・」
「それは大丈夫。今まで、それで断られたんだろ?」
「・・・はい。」

 静は私のことを何も聞かなかった。話すべきことが沢山あるような気がするが、何を説明して良いのか分からない。それに、両親のことを話すとまだ泣きそうだった。

「あの・・・私は・・・」
「良いよ。落ち着いてからで。俺は人を見る目あるし、一度こうやって話しをするとだいたい分かる。それに、君には特別感じるものがあるしね。」

 にこっと彼は笑う。
 動物みたいだ、と私は思った。イルカやシャチは人の悲しみをかぎ分けるそうだ。それに、セラピー犬は、傷ついた人の心を感じるという。

 一日緊張して歩き回り、お腹も空いていた。やっと住む場所が決まり、仕事も決まりそうで、私は少しほっとしたんだろう。事務所に通されてテーブルに並べられた書類を、ろくに見ずにとにかく次々と実家の住所、アパートの新住所、氏名、印鑑、という作業を繰り返した。5枚くらいは同じことを書き続けたと思う。

「OK。あとはこっちで記入すれば良いから。仕事は早速明日から少しずつ手伝ってもらって良い?簡単なものから覚えてもらいたいからね。それに、君、住民票の移動とか必要だろ?住む場所が決まったわけだし。明日、俺の届けもあるから昼休み一緒に区役所へ行こう。ここに来るまでの交通手段はバスがあるから。はい、これ、時刻表。」

 静は、そう言って書類を片付け、私にバスの時刻表のコピーをくれた。
 ああ、そうか。前のスタッフも同じ部屋に住んでいたんだから、そういうのも彼女のためにあったんだろう。

「じゃ、お祝いに夕食をごちそうしてあげるよ。」
「・・・え?」
「お腹、空いてるんだろ?」

 確かにさっきからお腹がぐうぐういっている。私はかああっと頬が熱くなった。やっぱり聞こえていたのか・・・。

 気軽に食べられるように、と考えてくれたらしく、静はそれほど固くない小さなレストランへ私を連れて行った。

「好き嫌いが特になければ、俺が勝手に頼んで良い?」
「あ、はい。大丈夫です。」
「そう。」

 静は、メニューを見ながら、コース料理ではなく、単品でいくつかの大皿をオーダーして、取り皿を付けてもらったようだ。

「どうぞ、好きなだけ食べて。」
「いただきます。」

 お腹がぺこぺこだった私は、すべてのディッシュを少しずつ全部味わってみる。そのおいしさに感動する私を、静は嬉しそうに見つめる。なんだか、その眼差しが両親を思い起こさせた。そんな風に温かい視線だった。

「天音ちゃん、俺と結婚しない?」

 突然、表情を変えずに静が言う。
 私は思わず、グラスの水を吹き出しそうになった。

「・・・は・・・はあ?」
「相性良さそうじゃない?俺たち。」
「そっ・・・そんなこと、まだ会ったばかりですし・・・」
「普通はね。」

 静は柔らかい表情のままで、真っ直ぐ私の目を見据える。

「一目惚れ、ってのとは違うんだけど、なんか‘縁’というか、‘絆’みたいな、俺はきっとこの子と人生を深く関わるだろうって、そういうのを感じるんだよね。」

 さっき言ってた‘特別感じるものがある’って・・・そういう意味だったのか?いや、私は特に何も感じませんが。

「・・・あの、でも・・・私は・・・」

 やっと見つけた雇い主、やっとありついた食事、やっと手に入れたアパート。それを思うと無碍にも断れない。

「じゃあ、相性を試してみる?」
「・・・は?」

 試す?何を?どうやって?

「セックスしてみる?」

 がたん、とグラスを倒して、私は慌てる。

「ひゃあ・・・っ、すっ、すみませんっ」

 ウェイターさんがてきぱきと流れた水を拭き取り、水をかぶった皿を下げ、何事もなかったかのように新しいグラスを運んできてくれた。お互いの服を汚さなかっただけ幸いだった。

 静は恐縮する私をくすくす笑って見ている。

「・・・すみません。」

 冗談・・・ですよね?と私は恐る恐る彼の目を見上げる。

「今夜、俺の部屋に泊まってみる?」
「・・・それは・・・」
「それは?」
「・・・。」

 どうしよう?一体、何を言い出すんだろう?
 青ざめる私をおもしろそうに見ていた静は、分かった、という風に食事を再開する。

「大丈夫、俺は無理強いはしないし、寝込みを襲ったりもしないから。でも、まぁ、考えておいて。プロポーズの件も。」

 私はすっかり食欲を失った。



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[コメディ・恋愛

~ Comment ~


まさかです!

いきなりの告白とは! 驚きです!
予測がつかないストーリーで、ひきつけられます!

ところで、fateさんは人の作品のオマージュをやったりと、顔が広いんですね。尊敬しちゃいます!
いつかゆない。もそういったことをやってみたいです。共同で作品を作ったりできたら楽しいだろうなぁ、と妄想したりしてますw
ではまた来ますね!
#228[2011/10/26 17:01]  ゆない。  URL 

Re: まさかです!

わはは。
静は、変な男なんで…。というか、正直すぎると評価してやれば怒られないかも。
fateの登場人物は、女の子は可愛いのに、男は偏屈で冷酷で変態ばっかりでイヤになるわ~。

ところで、はい、実はオマージュとかスピンオフとか、実は言葉の意味をよく知らないくせに聞き流して、知ったかぶりしておりますが、きっと「こういうことだろうな…」で、納得しております。
厳密には説明出来ません。
が、なんでそんなことをするのか?という理由は単純明快です!
fateは惚れっぽいのです!!!
物語に、人物に、時々は絵画を観ても、どっかすげ~雄大な景色を観ても、或いは現実の恋人たちを観ても、その設定とか関係性とかに‘恋’しちゃうんです(←ゲゲッ気持ち悪っ!!!)。
まぁ、感動の少し度を越した奴?と言いますか?
そうなると、もう一人占めしたくなっちゃって、結局、fateの中に取り込んじゃって、それを表現する方法が文章しかない。これが音楽家だったら曲を作り、画家だったら絵で表現する。それの文章バージョンですな。

ゆない。さんは文章力が素晴らしいから、やってもらった作家さんは嬉しいだろうな!
女性作家さんのものを、男性の手で再現するってのもおもしろいだろうな、なんて、既に、ゆない。さんのオマージュ作品を夢みております。
ぜひ、機会があったら挑戦してみてください(^^)

それから、顔が広いんじゃなくて、結局は、周りの人々に恵まれているだけです(^^;
皆さん、しょーがねえな、と思ってくださっていて、優しいから。
何せ、お二人とも、事後報告!という恐ろしいことをやってのけました。
これからは、事前にお断りを入れることを心がけます…。(反省!)

#232[2011/10/27 06:59]  fate  URL 

>「天音ちゃん、俺と結婚しない?」

ここまで、飛びますか?!ww
って
でも、こういうの、嫌いじゃないですね。
段階的とか、順序とか、面白くないしね。

自分の書き始めて、ストップしている物語・・
この間、自分で読み直していて、
また、ここで物語を読んでいて・・

書いてみようかな?って
気になりました。

面白いです。続きは、また読みに来ます。

追記
勇気あるコメント、本当にありがとう。
とてもうれしかったです。
#2355[2012/08/30 23:54]  雫  URL  [Edit]

雫さまへ

雫さん、

またまたお忙しいのに、ありがとうございます!
fateは時間が取れないときはひたすら死んでます~(^^;
記事も最近は予約投稿が多いし。

> >「天音ちゃん、俺と結婚しない?」
>
> ここまで、飛びますか?!ww

↑↑↑はい、ここまでブッ飛ぶんです!
これは、最初に浮かんだシーンがここだったので。
で、これを前提に物語が展開しいく訳っすよ。
こういうノリは気軽で明るくて楽しかったです~
(つまりは他は暗くて重いんだす。虐待を扱った世界もございますし。陵辱も(^^;)

> 自分の書き始めて、ストップしている物語・・
> この間、自分で読み直していて、
> また、ここで物語を読んでいて・・
>
> 書いてみようかな?って
> 気になりました。

↑↑↑fateの尊敬する作家さんにも以前そうおっしゃっていただいたことがありました~
刺激を受けると作家さんって、創作に火が灯るようですねぇ。
(fateの世界を読んで、これで小説と言えるなら、もっとマシな物語が書けるぜ、と誰もが自信を抱かれるせいであろう(ーー;)
ふふふふ。
でも、ちょっと嬉しい。
そうやって大作が完成されたら、少しはfateも貢献した気になるわ~

> 追記
> 勇気あるコメント、本当にありがとう。
> とてもうれしかったです。

↑↑↑ぎゃああああっ、そ、そんなっ
恐縮です~
・・・けっこうおちゃらけているfateですが(^^;
実は、そういう社会問題には敏感に反応するし、実は、テーマとして扱うモノが、根底にはそういうゲンジツが流れているんです。
官能モノを一時期すごく描いたのは、読者が釣れるから。
そこに対する興味からでも良いから世界に入っていただき、テーマとして流れるものを片鱗でも受け取っていただき、心のどこかに留めて欲しかったんだす。
それと、fate自身の‘闇(病み)’の昇華。
数年間ひたすら描き続けてきましたが、そろそろ出すものは出し切ったかなぁ?
(だから、他作家さんのご紹介記事なんかをやらかす(^^;)

#2357[2012/08/31 08:22]  fate  URL 














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