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Stories of fate


永遠の刹那

永遠の刹那 (結婚記念日) 2

 僅かばかりのお金と、ほんの少しの着替えと、それだけをバッグに詰め込んで、私はとにかく住む場所と仕事を探さなければならなかった。

 しかし、アパートを借りるにも保証人が必要だとか、仕事を探すにも身元引受人が必要だとか、なんだかんだで断られ続け、私は一息つこうと小さなカフェに入った。朝から何も食べていなかったけど、あまり無駄遣いは出来ず、フルーツジュースだけを頼んで、窓際の二人用の席に腰を下ろした。

 もう夕方近かった。一日歩き詰めで足は痛くなるし、気持ちばかりは焦って、今夜は路上で寝るしかないのかなぁ・・・と物悲しい気分だった。

 でも、両親を恨んだりはしなかったし、私はまだ人生に希望を捨ててはいなかった。
 まだ、一日目だ。諦めるのは早い。

 そう思う傍から、数日後の自分の姿が見えるような気がして滅入ってくる。同じこの店、この席に座ってため息をついている田舎娘。

 カラン、と氷が音を立てて、ふと我に返る。大事に飲んでいたジュースも、もう空っぽだ。
 お腹、空いたな・・・。

 メニューをぼんやり見つめるが、とても高くてひるんでしまう。ジュース一杯だって千円近くするのだ。もう、今日一日分の食費は使った気分だ。

「こちら、空いてますか?」

 ふと、上から声が降ってきて、私は顔を上げる。

 ラテン系?かと思われるような少し日本人離れした掘りの深い顔立ちの男性が立っていた。背もものすごく高い。ブルーのワイシャツを着て、白いパンツを穿いている。サラリーマンかな?

 年の頃は・・・30代くらい?良い男って部類なのかな。まぁ、好みの問題だろうけど。どちらかというとアクション系。すっきり爽やかな二枚目ではない。

 どうも、向かいの席に座っても良いのか?と聞いているらしい、と分かったときには大分時間が経っていた。

「あ・・・っ、はい、どうぞ。」

 それでも、手にコーヒーカップを抱えたまま、彼は辛抱強く待っていてくれた。

「旅行中?」

 彼は椅子を引いて座り、カップをテーブルに置くと、私の荷物にちらりと視線を走らせて微笑む。柔らかいがどこかクールな笑みだと私は思った。都会の人って皆こんな感じなのかな。

「・・・えと・・・、いえ。今、住むところを探していて。」

 普通、そんなプライベートなことは初対面の人に話すべきではないんだろうけど、ちょっと気弱になっていたのだろう、私は思わずそう口にして、言ってしまってから、「しまった!」と思う。

「へえ。仕事は何しているの?」

 彼はカップを傾けながら淡々とした口調で聞く。
 私は、答えに一瞬間が空いた。悪い人ではなさそうだけど・・・。

「もしかして、求職中?」

 ややあって、私は諦めて頷いた。

「君、何か資格持ってる?」
「いいえ。」
「仕事の当ては?」

 首を振る。

「じゃあさ、俺のところで働かない?ちょうど、求人出すところだったんだ。」

 はあ?何、そのタイミングの良さ。・・胡散臭すぎる・・・。

「本当だって。今まで働いてくれてた子が先月、結婚退職してしまってさ。しばらく、まぁ、良いかな、って一人でやってたんだけど、やっぱりいろいろ不都合が出来てさ。ハローワークに求人出そうかな、って思ってたところ。」
「・・・何のお仕事なんですか?」
「俺ははり師。君にやって欲しいのは、受付と会計と月末の保険請求なんかの、まあ事務だね。それから、患者が若い女性も多いから、やはりどうしても女性スタッフが必要なんだよ。半月、一人でやってたけど、やっぱり人を雇うことにしたんだ。馴染みの患者さんにも新しいスタッフはまだか?って毎回聞かれるし。」

 事務なら、今まで両親の仕事をちょっとだけ手伝ってたので、出来そうな気がした。しかし、そんな上手い話、あるか?今日一日、訪ねた先すべて門前払いだったのに。それに・・・

「はり師・・・って何ですか?」
「鍼灸師とも言うかな。東洋医学の医者みたいなものだよ。知らない?」
「・・・ああ、はい、分かります。」

 というか、聞いたことはある、程度だけど。

「どう?俺のところで働いてくれるなら、辞めた子が使ってたアパートの部屋が空いてるし、新居では使わないからって置いてった家具もけっこう揃ってるけど。」
「ほ・・・本当ですか?」
「うん。まぁ、でも、要らないから置いてったものだけあって、古いけどね。ベッドとカーテンと冷蔵庫と・・・洗濯機もあったかな?ちょっと見てみないと忘れたけど、炊飯器もあったんじゃないかな?食器類はほとんど持って行ったけどね。」

 降って沸いた幸運!

「ぜひ、お願いします!」
「まず、部屋を見てみるかい?」

 彼はクールに微笑んだ。



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[コメディ・恋愛

~ Comment ~


はじめまして。
『三流自作小説劇場』のヒロハルと申します。
私のブログへのご訪問ありがとうございました。

今はあまり時間なく、ここまでしか読ませてもらえませんでしたが、なかなかさらりと読みやすくて、
先の展開が気に掛かりました。
また寄らせていただこうと思います。

こちらのほうへもどうぞお越し下さい。
#44[2011/09/28 13:40]  ヒロハル  URL 

ヒロハルさまへ

ご訪問、コメント、ありがとうございます!
fateは今回コメントは残せませんでしたが、実は、すでに一作拝読させていただいておりました!
何故、コメントしなかったのか?
はい、実は、あまりのコメント数に恐れおののいて、ちょっと躊躇われただけで、本当は「うう~っ、感想言いたい!!!」と悶えつつも、しょんぼり戻ってきたのでした…。
次回は、何が何でも、感想書きまくってきます(^^;
ちなみに、今回拝読させていただいたのは「上手な別れ方」でした。
次回、何を読もっかな~と楽しみです!

『永遠の刹那』はfateも割と気に入ってます(^^)
コメディは書いてて楽しかったです。
けっこう重いstoryもありますが、こちらから入っていただき、嬉しいです。
よろしくお願いいたします(^^)

#46[2011/09/28 16:25]  fate  URL 

またまた参上のゆない。ですw

話がいよいよ動き出してきて、今後が期待大です!
というか、fateさんの作品は読みやすいですね!

ブロともの件ですが、承認だけで大丈夫ですよ。ゆない。のブログの「ブロとも一覧」をご覧ください。ばっちり入ってますよ!
#133[2011/10/13 17:02]  ゆない。  URL 

Re: またまた参上のゆない。ですw

何度もご足労かけてすみません(^^;
はい、確認してきました。ありがとうございます!安心いたしました。
イメージ(写真か何か)入れないとマヌケですね。その内、何か考えます(^^;

こちらも読んでくださっていたのですね~
嬉しいです。
いやいやいや、『マーメイド~』と『永遠の刹那』は、特に軽いです。
でも、全体的に、読みやすさを心がけてはいるかも知れません。
以前かつまさんに、わざと表現を幼稚っぽくしているのでは?と指摘され、なるほど!と思いました。
引き込み、ですな、恐らく。(意識してそうしているのかfateにも疑問です…)
こうやって、物語が好きで覗いてくださる方はもちろん!活字離れ甚だしい人々にも導入として読みやすさをお届けして、本当に伝えたいことへ導きたい…と、考えたのではなかろうか?

フザケた文学。
もうちょっとズレたら、『文学』じゃね~よ、っていうギリギリのラインをなんとか死守して、最終的に、本物の文学作家さんへの橋渡し、的な。
まぁ、そんなことももしかして無意識的には目論んでいるのかも、です。へへへ。

作家さんの卵がたくさんいるようなので、ぜひぜひ、今の内にお近づきになって、いつか遊んでもらおうと楽しみにしております(^^)





#134[2011/10/13 17:37]  fate  URL 

遅くなりました。

>降って沸いた幸運!

なんて、良い話なんだ・・。

でも、闇の世界・・だから、ものすごい展開に。
なんて、どきどき感で読み始めました。

とてもテンポが良いですね。
文字並びも読みやすいです。
たくさんある中から、これを選びました。

また、来ますね。
今度は、深夜・・闇の時間に。。
#2350[2012/08/28 19:53]  雫  URL  [Edit]

Re: 遅くなりました。

雫さん、

うひゃああ、お忙しいのに、貴重なお時間を割いていただき、恐縮です~(^^;
ああ、こちらは、それほど‘闇’の世界は深くないので、けっこう軽く流せると思います。
っていうか、最初にこちらを選んでいただき、ホッとしておりやす~
カテゴリの上半分はけっこうセーフっぽいですが、下半分はかなりの度合いで倒錯しているし、world解説でご確認して、覚悟を決められたときのみ、ご入場くださった方が良いです(^^;
そして、途中退場可! ですので。

> とてもテンポが良いですね。
> 文字並びも読みやすいです。

↑↑↑これは、ある程度意識してそうしたので、引き込み的にテンポは良い方っす。
よく言われるラブコメってやつですよ~ん。
(いや、のつもりってことです(・・;)

> また、来ますね。
> 今度は、深夜・・闇の時間に。。

↑↑↑おおおお、なんか良いなぁ、そういうのっ!
でも、くれぐれも睡眠・休養は第一に取られてくださいまし~
明け方までかかって読んでしまった、なんておっしゃる方がいつかものすごい時間にコメくださったことがありましたが、ぎゃああああっ、だ、大丈夫っすかぁぁ(^^; ととても心配になりましたので~
#2352[2012/08/28 22:09]  fate  URL 














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