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Stories of fate


紺碧の蒼

紺碧の蒼 (プロローグ) 3

 海は嫌いだ。

 何故なら、私の家族はみんな、海に呑み込まれて死んだ。波がすべてをさらっていき、遺体も未だ見つからない。誰を恨むことも出来ず、初めは私一人を残していった家族を恨んだりもした。何度も死のうとして、だけど海に殺されるなんてまっ平だと、故郷を離れて都会へ出た。ただ、死に場所を求めていたのだ。

 営業で外歩きをしていた彼と出会ったのはそんな頃だ。

 彼は、いつもぼうっと川面を眺めていたり、線路の前に佇んで動かない私を気にかけていてくれていたそうだ。全身で寂しい、悲しい、と訴えかけていた孤独な田舎娘を、彼だけが心に留めてくれていた。

 気力のないアルバイトをしながら、日々の生活がやっとだった私は、ろくに食事もせずに、空いた時間は何時間でも橋の上にいたり、喫茶店の隅の席で外を眺めていたりしていた。
 そして、不意に魔がさして川に飛び込もうとした夕暮れ、彼に捕まった。

「おい。やめろよ。」

 決して優しくはないひと言で、ぐい、と腕を掴まれた。
 ぼんやり振り返ると、変に明るい空気を抱く背の高い男が心配そうな顔をして私を見ていた。

「・・・誰?」
「俺?・・・名乗っても良いけど、名前なんて必要かい?」

 彼は、にこりともせずに、そのまま私をぐいぐい引っ張って、小さな軽食喫茶に連れ込んだ。そして、私に一切何も聞かずにいきなりランチセットを二つ注文し(もう、ランチは終わりですって言ってるのに、彼は無理やり頼み込んでいた。彼は常連さんだったらしく、店のマスターが仕方ないなぁ、と苦笑していた。)「ま、食事しようぜ。」と初めて笑いかけてくれた。

 その笑顔を見た途端、私は涙腺が壊れたのかと思うくらい、突然、次から次へと涙が溢れて止まらなくなった。

 声も出さずに、ただ涙を零す私に、「バカだな、泣きたいときにはしっかり声をあげて、気にせず泣くんだよ。」と頭を撫でてくれた。その手があったかくて、父や母を否応なく思い起こさせて、私はもう人目も気にせず、わんわん泣き始めた。

 ちょうど、ランチが終わって、夕方に人が混んでくる前の空いた時間帯だったので、それほど客がいなくて、店の人も文句を言わずに見守ってくれていたようだ。

 散々泣いて、ぐちゃぐちゃになって顔をあげたとき、彼はいつのまに用意してもらっていたらしい蒸しタオルを私に手渡し、「なんなら、洗面所に行って顔を洗ってきな。」と笑っていた。

 優しい、瞳だった。
 どうして、見ず知らずの私なんかのために?と思うくらい、初めから彼は親切だった。

 その喫茶店はその後も、彼とよくランチを食べに行った。
 店の人にも当時のことをよくからかわれ、だけど、何故か私はそれが嬉しかった。田舎では、そういう関わりが当たり前だったから。

 私は、とにかく、寂しくて、悲しくて、孤独だったのだ。




 二度と戻るまいと後にした故郷だった。
 だけど、私は他に行くところなんてなくて、ふらふらとあの海を目指した。

 彼は、びっくりするくらい優しい人だった。強い人だった。この世のすべてを愛していたんじゃないかと思うくらい、誰にでも公平で親切で、人が大好きだった人だから。

 私が死んでも、彼と同じところになんて行けやしない。
 それでも、もう彼のいないこの世界には一時だっていたくなかった。

 私を必要としてくれた唯一の人を失って、私は、ここに留まる最後の理由を見失った。一呼吸一呼吸が苦しくて、もしかして、彼の辛さを今味わっているのかと思う。
 
 同じ苦しみを味わえていることに喜びを感じた。それくらい、もう、私はおかしくなっていたのだろう。
 一分一秒が永遠のように長く感じて、もう、これ以上生きていることに耐えられなかった。



 
 早く。
 早く。
 早く、何も感じなくなりたい。




 悲しいことも、辛いことも、苦しかったことも・・・愛したことも。
 何もかも忘れてしまいたい。






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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ファンタジー小説

~ Comment ~


今度はこれを!

読ませていただきます!
衝撃のスタートから物語がどう展開していくのか、楽しみです!
最後に光が降り注ぐことを信じて、読み進めていきたいと思います!

それにしても、この作品のタイトル、すごいかっこいいです!
#1144[2011/12/29 11:27]  ゆない。  URL 

Re: 今度はこれを!

ゆない。さん、

おおお、ありがとうございます。
これは、けっこうfate自身も好きな世界です。

> 最後に光が降り注ぐことを信じて、読み進めていきたいと思います!

↑↑↑‘ひかり’ああ、そうですね。
そう祈りたいです。(誰が?(--;)

> それにしても、この作品のタイトル、すごいかっこいいです!

↑↑↑うひゃああっ、ありがとうございます。
超! 照れます~。へへへへ。
(単に気持ち悪いだけだからよせって(-"-*)
#1145[2011/12/29 12:00]  fate  URL 














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