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Stories of fate


Horizon(R-18)

Horizon (夏の終わり) 44

 そして、不意に思い出した。私がうわ言のように彼にした質問を。

‘今まで好きになった女の人はいなかったの?’

 そう、聞いたのだ。彼が、あまりにも、女性に対して辛らつな表現をするので。

「好きという表現で違和感がないのも、絶対に逃がさない、と思ったのも、まあ、今のところ、お前だけだね。」
「・・・。」

 喜ぶべきことなのか、私は考えあぐねて茫然と彼を見上げてしまった。

「なんで?」

 他に言葉が見つからなくて、私は更に間抜けな質問をする。

「そうだな。きっと鴻子は根性あるから、俺を残して勝手に逝ったりはしないだろうと思ったのかな。」
「全然色っぽくないのね。」
「じゃあ、色っぽい話をしてやるよ。」

 信長は、ベッドに腰掛けて私を抱き起こし、その大きな胸に私の頭を抱いた。

「初めて見たとき、俺はお前に一目惚れしたんだよ。」

 また、テキトーなことを・・・。

「全然、信じてないだろ?」

 私の無反応に、彼は笑う。

「あの事務所の所長とは別件でちょっと関わったことがあってね。良い女の子がいないか?と冗談で聞いたら、拾ったばかりでまだ仕事をさせてない良い子がいる、と持ちかけられて、あそこに呼ばれた。連れて来られたお前を見て、怯えていてはいてもまだそれだけで、腐ってないしすれてもいない、奥に強い意思を持った、綺麗な目をした子だと思った。だから、欲しいと思った。なかなか法外な値段だったけど、それでもどうしても欲しいと思ったんだ。」

 初めて聞かされたその話に、私の心は少なからず動揺した。

「・・・だ・・・だって、じゃあ、どうしてあの後・・・」
「戻されたのか、って?」

 彼は私の頭を抱いていた手を話し、私の目を覗きこんだ。

「それは、お前が俺を裏切ろうとしたからだろ?」

 一瞬、彼の瞳に過ぎる冷たい光に私は身体の奥がきしむ。

「怒りに任せてあそこへ連れて行ってしまったけど、直後からものすごく後悔して、その日は仕事が手に付かなかった。夕方、すぐに戻って、お前を連れ帰った。まあ、散々ひどい目に遭って、さすがに懲りたようだったしね。」

 青ざめる私を見つめて、信長は笑う。

「二度と俺にそんなことはさせるな。」

 私は引きつった表情のままこくこくと頷いた。

「まあ、お前の質問に正確に答えると、過去に好きになった女はいない。どうしても欲しいと思ったのも、愛しいと感じたのも、お前だけだな。」

 真顔でそう言われ、私は、愛の告白を受けているというより、俺から逃げようなんて考えるな、と念を押されたような気分になって、はあ・・・と答える。

 そうやって勢いに押されてしまったお陰で、あまり自分でも把握出来ていなかったが、私の中で、長い間わだかまっていたらしいちくりとした氷が、そのときすうっと溶けていったことを私はなんとなく気付いた。
 あれ?と思う。

 それって、どういうことかなあ・・・?
 



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~


おおっ!
これはすごい、すごい、すごい!!

わだかまり、あります
ありますよ!
そして、そういうのって溶かそうと思って溶かせるものでもないんですよね?
それが溶けていくのはでも、本人はワカル

今日はこの、氷がとけたところでおしまいにいたします!

また遊びに来ますねーv
#2113[2012/05/16 12:02]  磯崎愛  URL 

磯崎愛さまへ

磯崎愛さん、

> おおっ!
> これはすごい、すごい、すごい!!

↑↑↑え、・・・そ、そうっすか?(^^;
ちょっと照れる。

わだかまりって、実はけっこう小さなことっていうか。くだらないことだったりするんだ。
本人は辛いけどね。
だから、溶かそうと思っても溶けない。
うんうん、確かにそうっす。
そんなこと、どーでも良い、と思い込もうとしている限り、溶かすことは出来ない。
なのに、意図しないときに、誰かが魔法のように溶かしてくれたりするんだ。
ふふふふ。
そこを汲み取っていただきまして、ありがとうございました(^^)
#2116[2012/05/16 16:30]  fate  URL 














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