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Stories of fate


サードゥ ~修行者・遊行者~(R-18)

サードゥ 21

「思い出さない方が幸せでしょうか?」

 俺が思わず聞いたとき、篠崎さんは迷わず首を振った。

「そんなことはありません。今、美緒里さんは御影さんの目の前にいるんですから。ここに、戻っておいで、と言ってあげれば良いのですよ。御影さんが、美緒里さんとこのままずっと一緒にいたいと思っていらっしゃることをしっかりと伝えてあげれば良いと思います。それで、彼女はここに、今、ここに、20歳の彼女が戻って来られると思います。」

 ヤクザに身を売られた彼女は、薄汚い男の欲望に恐怖をおぼえ、混乱し、隙をみて逃げ出した。死んだ方がマシだと、彼女は考えたのかも知れない。みどりは、車のライトに照らされても、まったく避ける素振りはなかったそうだ。

 世界から拒絶され、虐げられて、だけど誰も恨むことも憎むことも出来なかった彼女が逃げ込んだ先は‘闇’の中だった。自らの記憶を封じるほど深い絶望の。

 そうやってぎりぎりの状態で生きていた美緒里に、あの夜、俺は彼女に同じことを仕掛けようとしたのだ。

‘残念ながら、俺、いつまで我慢出来るか保証はしないよ。’

 逃げ込んだ先で、美緒里は更に追いつめられ、絶望した。
 今なら分かる。あの、池にふらふらと入ろうとしたとき、彼女は死のうとしていたのだ。




 それでも、何故、美緒里は俺を受け入れてしまったのだろう?

 俺が、あの、公園で出会った3万円をくれた相手だと、どこかで分かっていたからだろうか。
 そして、知っていたからこそ、むしろ混乱し、どうして良いのか分からなかったのだろう。

 ‘初恋’だったのだろう、と八百屋のおばさんは言っていたそうだ。
 普通の親切をあまり受けたことがない美緒里は、そんな風に思い込んでしまったのだろうか。
 



 今後、何か困ったことがあれば、いつでもご相談にのります、と最後に美緒里をしっかりと見つめて、篠崎さんは帰っていった。

 澄んだ子どもの眼差しで彼女はそれを見送り、俺を見上げるとお腹が空いた、とその眼で訴えた。雛鳥が親に餌をねだるような、本能のままの素朴で純粋な心。大人になればそこに雑多なものが入り混じり、計算や打算が働きだして、こういう生の感情は鳴りをひそめてしまうだろう。

 それを、ほんの少し惜しいと感じてしまう。だけど、やはりこのままで良い筈はない。

「ここに戻っておいで、美緒里ちゃん。」

 俺はその頭をくしゃっと撫でながら言ってみた。

「せめて、俺たちが出会ったあの時間まで。」

 言われたことが分かったのか分かっていないのか。彼女は、じっと俺の目を見つめていたが、やがてふわっとした笑顔を作った。それは、子どもの無邪気なそれではなくて、一瞬、俺が目をこらしてしまうような柔らかい大人の笑みだった。






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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~


切ないけどいい話

最後は、じんわり「これでよかったんだなあ」って、思えました。
御影さんは罪悪感や後悔が残ったかもしれないけど、美緒里ちゃんにとっては、一番いい出会い(再開)で、結果だったような気がします。
言葉を覚えないのも、きっとそうしたかったんだろうし、御影さんを受け入れたのも、きっと美緒里の意思だろうし。
御影さんって、好感持てますよね。
自分の欲望に素直なんだけど、なんか憎めない。こういうキャラ、好きです。
このあと、二人に幸せな未来があればいいなって、そう思います。
もしかしたら、一年もすれば、美緒里ちゃんは御影さんもびっくりするようないい女になってたりして^^
楽しかったです♪
次は、どれをよもうかな~。
#74[2011/10/02 16:42]  lime  URL  [Edit]

Re: 切ないけどいい話

おお!読んでいただき、嬉しいです(^^)

> 御影さんって、好感持てますよね。
> 自分の欲望に素直なんだけど、なんか憎めない。こういうキャラ、好きです。

↑↑↑どっひゃ~、なんか照れます(^^)ああ、いやいや、fateが褒められたんじゃなかったわい…。
なんとなく、文豪ってイメージでした。ゴーストだけどさ。
まぁ、正直で良い…ことにしていただければ(^^;

> もしかしたら、一年もすれば、美緒里ちゃんは御影さんもびっくりするようないい女になってたりして^^
 
↑↑↑良いですね~、そういう未来!!!
希望が持てます(^^)きっとそうに違いない!
記憶が戻ることが本当に幸せか?記憶がなければ不幸か?
今、改めて考えました。
歴史はそこから積み上げていけば良い。
そんな風にも思いました。

読んでいただきまして、心よりありがとうございます!

#75[2011/10/03 07:03]  fate  URL 

不公平というのは

美人が云々と私が書いたときの、fateさんの反応はこういうことだったのかな。
人生って不条理で不公平ですよねぇ。
持って生まれたものが個々にちがって、それゆえにそれはどうしようもない、と。

男の欲望、女は被害者。
そういうことも実際、よくあるのかもしれません。

fateさんの作品を読ませていただき、ついているみなさまのコメントを読むのも勉強になります。
私はなんだって上っ面ばっかりだと反省しきりです。

今回は大人の、現代のおとぎばなしみたいなところもあって、素敵なエンディングでよかったです。
#789[2011/12/04 10:05]  あかね  URL 

Re: 不公平というのは

あかねさん、

そうなんですな~。fateとしては、美人云々ではなくて、ふと見かけた同じ年頃の少女たちの、その境遇の違いに心を痛めて、その痛みが彼女を覚えていた…ということを言いたかったんですかね。

だけど、結局は忘れていたんです、彼は。
特にイイコトをしたとすら思わず、彼にとっては一度の食事で使ってしまう程度のお金を、目の前の捨て猫に餌を与える程度の気持ちで与えて。
それが、むしろ、痛みの涙だったかな、とあかねさんのコメントを拝見しながら思いました。

不公平とか不平等とか。
物語ではなくて、世の中には平気で、もっと普通に、もっと悲惨なことが公然とある事実。
事実は小説より奇なり。ということ。
ここで彼女一人を救っても、世の中にはもっともっとひどい境遇の少年・少女がいる。
そんな世界でした。

「大人の現代のおとぎ話。」
ううう、なんて素敵な表現であろうか!!
素敵な評価をありがとうございます(^^)

明日は一日移動の日なので、明後日以降、こちらからもまたお邪魔させていただきます~

#791[2011/12/04 19:58]  fate  URL 














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