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Stories of fate


サードゥ ~修行者・遊行者~(R-18)

サードゥ 19

 母が入院する頃、つまり、昨年の冬の初めのことだ。

 その日、俺は取材の仕事が入っていて、出版社の人間と町へ出てその辺を歩いている若者たちに手当たり次第にインタビューをしていた。そう。若者の意識調査のようなことをだ。

 次第に都心から離れ、住宅地のような場所にまで入り込んで夕方まで俺たちはそれを続けていた。

 その前日、母が入院となり、俺は少し意気消沈していた。
 その日、母と久しぶりに外食しようと思って、そのために数万円を財布に入れ早めに帰宅し、彼女を誘い出そうと思ったときに、母はもう倒れていたのだ。

 幸い大事には至らず、母はすぐに持ち直したが、弱っていた母はそのまま入院となってしまった。
 母の病院へ顔を出さなくては、と俺がそろそろ切り上げようと思ったとき、それまで話していた若者たちが、じゃあ、私たちはこれで、と近くのコンビニでへと去って行った。そして、俺たちもちょっと一服している間に、彼らは店の前で買ったものを食べ始めた。フライドチキンのようなものや、そろそろ肌寒くなる時期だったので、おでんとかだったような気がする。

「家に帰って、料理して食べた方がおいしいぞ?」

 俺は笑った。

「でも、今、食べたかったんです~。」

 と彼女たちも屈託なく笑った。

 そのとき、ふと向かいの公園のブランコに、少し薄汚れたような青い作業着を着て、一人の女の子が座っているのが目に入った。さらさらと肩まである髪の毛、そして、青白い肌の細い子だった。彼女は、コンビニ前で仲良くおやつを食べている少女たちを、本当に羨ましそうに見つめていた。

 俺は、なんとなく、見るともなしに彼女をじっと見つめてしまった。

 その子は、ひどくお腹が空いているようだった。それでも、ポケットから取り出した小銭入れ・・・そう、財布ですらない、まったく初めから小銭しか入れられない小さなそれを何度か握り締め、そして、俯いた。

 さらりと髪の毛が揺れ、彼女の顔を覆った。いつからその子はそこにいたのだろう?なんだか、胸が締め付けられ、俺は、反射的にその子に近づいた。

 彼女は、突然近寄って行った俺を、初め不思議そうに、そして明らかに自分に向かってくる見知らぬ男を、驚いたようにじっと見つめた。

「ええと、こんにちは。」

 俺は、ゆっくりと近づきながら笑いかける。彼女は、俺がコンビニ前の子たちにインタビューしていたところを見ていたんだろうか。それほど警戒せずに、ただ俺を見上げていた。

「ちょっと、いくつか質問して良い?」

 俺は、2.3、それまで繰り返していた型通りの質問をしてみる。特に驚いた風もなく、彼女は迷惑そうな顔もせずに、小さな声でぽつりぽつりと答えてくれた。

「ありがとう。」

 俺は、空いていた彼女の隣のブランコに座り込み、そして、胸ポケットから財布を取り出し、そこから名刺と母と食事するために用意していた数万円、たぶん、3万ほどだったと思う、それを取り出して彼女の手に握らせた。

「俺は、こういう者で、変質者とかじゃないから。」

 驚いて俺を見上げる彼女に俺は言った。

「今したような質問の統計を取って、それに対するいろんな意見とかをまとめて記事にするんだ。それでさ、実はこのお金、ちょっと訳があって使い道がなくなっちゃったんだ。だから、インタビューに答えてくれたお礼に君に使ってもらえたら嬉しいな。そして、このお金の出所とか、家の人に聞かれたりしたら、ここに・・・」

 と、俺は自分の名刺の電話番号を指した。

「連絡入れてくれる?ちゃんと説明してあげるから。」

 彼女は、しばらく茫然としていて、何を言われているのかよく分からない、という表情だった。

「じゃ、インタビューありがとう。」

 俺は、尚も茫然としたままの彼女に微笑んで、そのまま立ち上がった。そして、帰り支度をして待っていてくれた出版社の人のところへ戻ろうとしたとき、後ろで小さな声が聞こえた。

「あ・・・あのっ・・・」

 振り返ると、彼女がブランコから立ち上がって、両手を握り締めていた。その手の中に、小さな小銭入れと俺の渡した数万円がちらりと見えた。

「ありがとうございます!」

 彼女が泣きそうになって頭を下げるのを見て、俺は手を上げて笑った。




 そのとき一緒だった出版社の人に聞いた話らしかった。
 確かにそうだったと俺も思い出していた。

 そして、そのとき感じたのだ。この日本の歪を。かたや、おやつ代わりにファーストフードを食べている若者がいるのに、恐らく食事すらマトモに取れない同じ年頃の子がいる。しかも、彼女は作業着を着ているということは、もう働いているのだろう。

 働いても、幸せになれないこの社会。
 同じ年頃の少女たちの間に歴然と広がるその溝。
 なんだか、やりきれなかった。

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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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