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Stories of fate


サードゥ ~修行者・遊行者~(R-18)

サードゥ 17

 その篠崎と名乗る紳士が帰ったあと、みどりはもう訪問者があったことなどまったく忘れてしまったように、変わらぬ態度でソファにくつろぎ、時々、俺に喉が渇いたと訴えに来ていた。

「みどりちゃん、そろそろ君も思い出す努力をしてみないかい?」

 さすがに俺も、このまま放っておくのは犯罪のような気がしてきた。

「思い出して、君が誰か分かったって、その上で君がここにいたいんだったら、ずっといて良いし、もしも家族に会いたいとか、帰りたいって言うなら、それはもちろん帰してあげるよ。・・・まぁ、多少、俺は寂しいけどね。」

 ジュースをこくこく飲んでいるみどりを俺はキッチンの椅子に座って見つめた。

「・・・どうして、言葉すら覚えようとしないのかな?君は・・・。」

 飲み終わったグラスを流しにそっと置いたみどりは、振り返って俺を見つめ、にこっと微笑む。その笑顔は悲しいくらい純粋で美しい。赤ん坊が誰にでも笑う屈託のない笑みのようで、なんだか切なくなる。

 日々のそういう生活動作はどんどん覚えて、家事も少しずつ出来るようになっている。なのに、言葉だけは覚えようとしない。だからむしろ、俺は口のきけない子と住んでいるような気すらしてしまう。

「君は、いったい誰なんだろうね?」

 みどりは不意に俺のそばにやって来て、俺の胸に顔をうずめて甘える。よしよし、と頭を撫でてやると、しばらくして満足したらしい彼女は、他のことに興味を移して離れていく。

 幼い頃の記憶・・・いや、或いは、叶えられなかった切望がこんな風に現れているのだろうか?



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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