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Stories of fate


サードゥ ~修行者・遊行者~(R-18)

サードゥ 13

 つまり、夕方まで俺はみどりのことにかかりきりで、予定されていた仕事に一切手をつける暇がなかった。

 しかし、どちらかと言えば被害者はみどりであって、俺ではない。むしろ俺は加害者であろう。親切面して女の子を引き取って、こらえ性もなく手を出したは良いが、その前後の雑多なことを皆先送りしていた結果がこれだ。
 少しおどおどと怯えているみどりを慰めながら、俺はため息をつく。

 明確な悪意があってしたことではないことに対して、普通、人は怯えたり卑屈になったりはしない。そういう心理に追い込まれるのは、相手に迷惑を掛けたとか、相手が怒っていると知った瞬間である。つまり、俺は多少イライラしていたんだろうと思う。

 いつも、時間に正確な俺の仕事が滞り、どうしたんですか?と担当者から連絡が入る。

「すみません、何時までにあげれば間に合います?」
「・・・時間で言えば、ぎりぎり今夜までで大丈夫ですが・・・、珍しいですね、御影先生が約束を違えるなんて。」

 どこか、具合でも悪いんですか?と彼は心配する。

「いえ。体調は万全です。ちょっとトラブルがあったもので。・・・時間までには送ります。」

 俺はそう言って電話を切った。

 そうか、これからこういう突発的なことが起こることを想定して、少し、時間を調整し直さないと、と俺はパソコンに向かいながら考えた。

 みどりを引き取ることに決めたのは俺だ。人を一人引き受けるとはこういうことだ。仕事のことでこの子に当たるようなことはしたくなかった。




 夕食の支度をする間もなく、俺は夜半過ぎまで仕事に没頭し、ようやく完成させた原稿を送信した。う~ん、と俺は伸びをする。そして、ふと気がつくと、辺りは真っ暗。みどりの気配もなかった。

「あれ?」と俺ははっとする。「みどりは?」

 慌てて寝室を覗くが、誰かが背後を通って寝室へ入った気配は感じなかったのだから、もちろん、いない。真っ暗なリビングへ向かい、明かりをつけると、ソファの上にもぞもぞと何かが蠢いて、みどりが寝ぼけた顔を上げた。

「待ちくたびれて眠っちゃってたか。ごめん、お腹空いただろ?夕飯、今急いで用意するよ。」

 ほっとして俺は笑う。

 俺がイラついている気配を敏感に受け取り、みどりは俺のそばにすら来なかったんだろう、と少し憐れになった。

「・・・み、かげ・・・」

 キッチンへ向かった俺の背中に、そんな声が聞こえた。

 え?と振り向くと、みどりがほんの少し、泣きそう・・・な、表情をして立っていた。一生懸命、記憶の糸を手繰り寄せるように言葉を紡いでいる気配が伝わってくる。

 瞬間、俺はひどく甘い気持ちになる。
 俺を怒らせたことが不安だったんだ・・・と分かったのだ。

「ごめんね、みどりちゃん。大丈夫、君は何も悪くないから。」

 よしよしと頭を撫でて、その髪の毛にチュッとキスを落とす。

「今、簡単なものを作るから、座って待ってて。」

 ダイニングの椅子に掛けさせ、俺は、ざくざくとキャベツを切り、人参や色物野菜を少し混ぜて炒める。そして、ベーコンを香り良く焦がし、卵を割って、ベーコンエッグと野菜炒めという朝食のようなメニューに、煮込んであったスープを温める。

 冷凍してあったご飯をレンジで温めて、ようやく夕食の形になった。




 夜は一度起こしてトイレに行かせなきゃならないんじゃないか?と俺は思い、夜中過ぎ、やはり俺がベッドに入る頃、眠っているみどりを揺り起こし、寝ぼけたままの彼女をトイレに連れて行く。

 そういう日々が数日続き、一週間くらい続く出血も、後半はそれほど量が多くないんだと俺は知った。
 そして、一応は知識としてだけあった女性の生理周期を身を持って実感する。

 この子は、生理痛のようなものはほとんどないらしい。

 月の満ち欠けと周期を同じくした女性の生理。28日を1サイクルとして、月経初日を1日として、14日目に排卵が起こる。そして、排卵された卵子は精子と出会えなければ、ほぼ丸一日という短い寿命を終えてしまう。そして、準備されていた子宮に受精卵が着床されなければ、その受精卵を迎えるために準備されていたベッド諸共、経血となって体外に排出されるのだ。

 つまり、その排卵日を挟んで前後数日間を気をつければ妊娠はしないということだ。何故、前後数日なのか。卵子と違って精子の寿命は長いのである。だいたい3日は生き続ける。だから、排卵日前3日間とそれから卵子が生きている翌日まで禁欲である。

 しかし、何分、相手は生き物である。感情の変化や体調の変化で、容易にその生理周期は変調を来たす。その日数だけを指標にしては失敗例が多いことも事実である。

 だけど。
 と俺は思う。別に子どもが出来たら出来たで構いはしない。

 俺もそろそろ良い年だし、最悪、お手伝いさんでも雇って面倒をみてもらえば良いのだ。赤ん坊と、その母親とを。

 俺は何故か、みどりを引き取りに来る家族が現れることを想定していなかった。この子は、俺の人生にこのまま深く関わっていくだろうと、そう確信めいたものを抱いていたのだ。




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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~


完全に男性視点ですよね

ここまで私が読ませていただいたfateさん作品の官能シーンは、女性サイドのものがほとんどだったと思います。

今回はすべてに於いて男性視点で、fateさんは両方が書けるんだと改めて感嘆しております。
私もたまにはちらっと男性視点でベッドシーンも書きますけど、女性視点の場合でもこうですから。

ベッドに入るまで、一緒にお風呂に入ったり服を脱がせたりするシーンは書く。
即座に場面転換。
彼が煙草を吸っていて、彼女は煙たがってる。
みたいなシーンになる。

そんな感じですから、官能シーンを上手に書かれる方も尊敬してしまいます。
女性にはつきもののあの手当てのシーンを男性の視点で書かれているのも新鮮でした。

と、細かいところばかり気にしつつ、この物語はどう進んで、どう終わるのだろうかとも、もちろん気になります。
#745[2011/11/30 10:30]  あかね  URL 

Re: 完全に男性視点ですよね

あかねさん、

そ…そう言われてみればそうか! 気付きませんでした(^^;
いや、彼女の視点で描けない状態だったからだと思います。あんまり考えてなかったらしい。
ああ、そんな風に評価していただけると嬉しいです。
が、これ、別に『官能』を入れる必要はもはやなかったのに、抜いて描き直すのが面倒だっただけでした(--;

今後、少しいろいろ考慮の余地がありますね~

これは、実は読者さまをちょっと泣かせたかった物語でしたが、…ううむ。
もう少しどうにかならなかったのか? という感じであっさり終わってしまいました(^^;

#749[2011/11/30 20:38]  fate  URL 














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