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Stories of fate


月の軌跡(R-18)

月の軌跡 (暁) 73

 週明け、澪を学校へ送ったその足で、柊は澪が何度か入院し、先週退院したばかりの総合病院へ向かった。そして、担当の医師に面会を求める。

 突然訪れた患者の家族に、担当医は戸惑ったようだが、忙しい時間の合い間に、医師は彼に会ってくれた。

「どうですか?奥さんの様子は?」

 通された待合室で、彼はにこやかに聞く。

「お陰様で、今日から学校へ行きました。」
「そうですか。しばらくは疲れやすいと思いますから、本人が大丈夫と言ってもあまり無理させないようにしてくださいね。」

 柊は頷いて医師を見つめ、しばらくためらった後、意を決して口を開く。

「あの・・・、本日伺ったのは・・・。」
「はい。」

 医師は、少し神妙な顔をして静かに柊を見つめる。

「相良の義父が、澪の身体について先生から宣告されたことがあるとうかがいまして、・・・そのお話を俺・・・私にもお話ししていただきたいと思いまして。」
「・・・相良先生が?」
「はい。あの・・・‘余命宣告’を受けていると。」
「余命宣告?」

 医師は一瞬、怪訝そう、とも取れるような厳しい表情をした。

「・・・それは、また穏やかざるお話しですね。」
「それは、先生が義父にお話しになったのではないんでしょうか?」

 柊は、おや?と思う。医師は何かを隠しているとか、そういう感じではなかった。

「ええ。・・・いえ、ちょっとそれは大袈裟ですね。恐らく、相良先生がおっしゃっているのは、私が『このままの状態で、これ以上、何かありましたら、私共には責任は持てません。もう、あとは数年という単位は保証できないかもしれません。』と申し上げたことを、そう受け取られているかと思います。」

 柊は、医師の言葉に瞬間、全身からざあっと血の気が引くような錯覚を得た。
 数年?澪の身体はそんなに悪いということなのか?

「ですが、それは、・・・昏睡が続いているときのお話しであって、目覚められて、こんなにしっかり社会復帰されておりますし、今はもう大丈夫ですよ。むしろ、生命力は予想以上にあがっている気がします。」
「・・・え?・・・では、義父は・・・」
「どんなに優秀な医師も、こと家族のことになると、まったくの素人と変わりなくなったりしますから。一度、ショックを受けたことが、頭から抜けなくて多少混乱されていらっしゃるのかもしれません。カリスマ的な外科医でも、身内の手術は難しいものです。」

 微笑む医師に、柊は、半ば茫然として言った。

「では・・・では、澪は大丈夫なんですね?もう、まったく、問題はないのですね?」
「まったく、と断言は出来ませんが、日常生活を送るのに支障が出るような状態ではありません。」
 柊は、良かった、と涙が出そうになるのを堪えて息をついた。
「ありがとうございます・・・。」
「いいえ。誤解されたままでいなくて、こちらも良かったです。相良先生にも、私の方から説明申し上げておきましょうか?」
「ええ。・・・ぜひ、お願いします。」

 柊が頭をさげると、医師はにっこりと微笑んだ。




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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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