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Stories of fate


Horizon(R-18)

Horizon (外出) 11

「鴻子さま、お食事の支度ができておりますが。」

 その日、お昼近くになってしぶしぶ起き上がり、書斎に足を踏み入れた私は、一体、どの本なら簡単に読めるだろう?とぼんやりと壁一杯にならぶ書籍の群れを虚ろに眺めていた。

「・・・はい、ありがとうございます。」

 はっとして振り返ると、開け放したままの扉の向こうで、通いの使用人が頭をさげている。彼女は、朝8時に出勤してきて、夕方6時には帰る、子ども二人と夫と4人家族の普通の奥さんらしかった。いつか、玄関を普段着で帰っていく彼女の姿を見かけて、私はここを出て行く彼女を羨ましく思って窓から見つめていた。それを背後で見ていた信長が、そんなことを説明した。名前は確か・・・普通にある苗字で、印象に残らず忘れてしまった。佐々木さんだったか佐藤さんだったか・・・。

 鴻子さま、と呼ばれるのにも大分慣れてきた。信長が私をどんな風に説明しているのか知らないが、使用人にとっては雇い主の所有物も、一応、雇い主の付属品という形で尊重されているのだろうか。

 食欲はあまりなかったが、ここで「あとで良い。」なんて断ることは私には出来ない。

 食事を与えられているだけで有り難いというものだ。本来なら、私もここで働くべきではないか?と思う。或いは、信長が私のために支払ったお金のために少しでもどこかで稼ぐべきでは?と。

 だけど、高校も出ていない私にマトモな職場があるとは到底思えなかった。それこそ、身体で稼ぐしかないだろう。そこまで考えるとぞっとして考えることを強制的に中断する。結局、いつもそこで思考はストップしたまま進まない。

 信長がいない平日は、私は普通にダイニングで食事を取る。
 ほぼ、一人きりだ。

 月に一度、信長が外へ連れ出してくれる食事は、ときに本格的なテーブルマナーが要求される高級レストランもある。それで、私は普段の食事の場で、そういうマナーも強制的に習わされている。和風の食卓もあるが、夕食はだいたいナイフとフォークの綺麗に並んだ食卓に就かなくてはならない。給仕も担当しながら、執事の幸甚さんという人が細かく教えてくれる。かなり年配のおじさんで、私はそういう威厳のある年配者には基本的に逆らわない。施設の事務長だった優しいおじさんにどことなく似ているせいかもしれない。

 今日の昼食メニューは、焼き魚と野菜の炒め物、それから根菜の煮物という和風なもので、私はほっとする。

 ごちそうさまでした、と箸を置くと、そのタイミングを見計らって、佐藤さん・・・だっけ?先ほどの女性が紅茶とか緑茶とか、そのときの食事に合わせた食後の飲み物を運んでくれる。そして、私がそれを飲んでいる間に、食器は片付けられる。

 なんだか、私は庶民のせいか、そういう世界にまだ落ち着けずにいる。

 いつもは、ぼうっとして過ごす午後だったが、今日はこれから本を物色して、読み始めなければならない。
 私は、ため息をつきながら、書斎へ戻った。




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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~


あら、お勉強いいじゃないですか(笑)
 
たんに支配するだけでいいなら学問なんていらないですもん
むしろ不必要としてとりあげられるものです
大切にされてますねv
 
どこか安心しながら読んでいたりします
 
#1830[2012/03/07 22:06]  磯崎愛  URL 

磯崎愛さまへ

磯崎愛さん、

> あら、お勉強いいじゃないですか(笑)

↑↑↑はい~
何をするにも勉強は必要ですね!!! ふふふふふ。
 
> たんに支配するだけでいいなら学問なんていらないですもん
> むしろ不必要としてとりあげられるものです
> 大切にされてますねv

↑↑↑おお、そう言われれば!!
信長の目的がきっと何かあるんであろう。
 
> どこか安心しながら読んでいたりします

↑↑↑うう、どうだろう…(^^;  
#1835[2012/03/08 08:01]  fate  URL 

鴻子ちゃんがとんでもない受難の日々を送っていたと思っていたら、なんだかホッとするようなこのひと時。

鴻子さま、ですか。
テーブルマナーに書籍の物色(?)

このギャップの真相は・・・
#2147[2012/05/29 20:48]  けい  URL 

けいさまへ

けいさん、

ぎゃあああっ、こっ、こんなところでお目にかかるとはっ(^^;
(と、ウロたえるなら、そもそもそんなハナシを描くなよ、ってことですね~)

> 鴻子さま、ですか。
> テーブルマナーに書籍の物色(?)
>
> このギャップの真相は・・・

↑↑↑あああ、皆様いろいろスルドイ!
まぁ、fate worldなんて単細胞で単純明快っすからぁ(^^;
#2148[2012/05/30 07:39]  fate  URL 














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