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Stories of fate


サードゥ ~修行者・遊行者~(R-18)

サードゥ 5

 夜は夜で、ちょっと混乱した。

 病院では滅多に入浴なんてないし、恐らくこの子は看護師さんが全部の面倒をみていたんだろう。お風呂をわかしてみどりを呼んだは良いが、服を脱がせても、風呂場でぼうっとしているだけだ。仕方がないので、俺も一緒に入って身体を洗ってやる。頭を洗ってやりながら、あやうくシャンプーの泡が目に入りそうになり、目を閉じなさい、と途中で慌てる。頭からシャワーをしているとそのお湯にむせる彼女に慌ててお湯を止める。
どうして、水の中で息をする?

 若い女の子と一緒に裸になっているのに、欲情するどころではなかった。
 やっと入浴を終え、パジャマ代わりに俺のTシャツを着せて、早々に彼女をベッドに入れる。

 それまでと違う環境、新しい経験をして、みどりも疲れていたようだ。ベッドへ入れて毛布を掛けてやると、彼女はすとん、と眠りに落ちていった。

「本当に赤ん坊みたいだなぁ・・・。」

 顔は大人の女性なのに、表情は赤ん坊のままだった。あどけない寝顔に俺は苦笑する。




 夜中過ぎまで仕事をし、ひとつの仕事を終えて俺は窓を開けた。

 まだ夜にはそこそこ気温が下がって、ひやりとした空気が肌を撫でる。電気を消して空を見上げると、その夜は曇っているのか星が見えなかった。

「寝るか・・・。」

 時計を見ると、午前2時をまわっていた。

 寝室に入って、ふと聞こえる人の寝息にぎょっとして、また、ああ、そうか、と俺は思い出す。この子を引き取ったんだった、と。

 枕もとの照明をつけて、みどりの寝顔を見つめる。

 年齢は20歳前後でしょうか、と病院では言っていた。体つきは確かに多少発育が悪いながらも、もう少女というものではなかった。しかし、記憶がないせいなのか、この子の表情は子どものそれと変わりがない。特に、こう無防備に、無心に眠っているとますますそう感じる。

 ただ、ひとつ気になるのは、事故に遭って病院に収容された当時、この子の身体は今よりもっと痩せていて栄養状態が悪かったということだ。あまりに貧しい故、病院の治療費などを払うことが出来ず、親が名乗り出られないのではないか、と看護師の一人が言っていた。

 そういう話しは最近よく聞く。
 どうして、こんな社会になってしまったんだろう。

 そして、俺はふと何かを思い出しそうになった。いつか、似たような思いをしなかったか?そう、まったく関係ない取材をしているとき、ふとした瞬間に・・・。

 しかし、それ以上の情報はそのとき意識にのぼってはこなかった。

 思い切り真ん中で眠っているみどりの身体を俺はそっと抱き上げて、少し横へずらす。このベッドはセミダブル程度の広さしかないので、正直、大人二人には充分とはいえない。その内、ダブルベッドでも買おう、と俺は思う。

 抱き上げられた感覚で彼女は身じろぎし、不意にぱっちりと目を開けた。

「ああ、ごめん、起こしちゃったね。」

 俺は言って、彼女の隣に潜り込みながら毛布を掛けなおす。

「まだ、夜中だから眠ってて良いよ。」

 みどりは、ぼうっとしたまま俺をじっと見つめている。
 どうも、こう反応がまったくないと、俺は人形とでも話しているような気分になってくる。まぁ、良いや、俺も眠い。俺は彼女の傍らに横になった。

「・・・み・・・かげ・・・?」

 目を閉じた俺の耳に、聞きなれない細い女の声が聞こえて、俺はぎょっとする。

「えっ?」

 声のした方を向くと、みどりが妙に澄んだ瞳で俺を見つめている。その瞳は月の光が宿ったように、ほんのりと光が灯っている。

「今、君がしゃべったの?」

 俺は驚いて身体を起こした。病院でも、それこそ医師や看護師が必死にこの子に言葉をしゃべらせようと努力している姿を何度か見かけていた。しかし、この子は話すどころか、瞳の焦点がきちんと合うことも滅多になく、もしかして、脳に致命的な傷を負ってしまったのかも知れないとすら思われていた。

 だから、俺も長期戦は覚悟していた。
 もしかして、一生このままかも知れませんよ、というニュアンスのことも言われていた。

「なんだ、君、話せるんだね、良かった。」

 しかし、みどりはそれきりその夜は二度と口を開くことはなかった。
 それでも俺はどこかほっとして、彼女の頭を撫でる。そして、そのまま眠りに就いた。




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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~


今度はサードゥ

「運命の出会い」なのでしょうか。
献身的な御影さんと、純粋無垢な感じのみどりちゃん。

今回は「現代文学」となってますね。恋愛でも官能でもホラーでもなく?
どんなふうに進んでいくのか楽しみです。

現代女性は中学生にもなれば「純粋無垢」なんかじゃなくなってしまうから、ワケアリでないとそうは描けませんよね。
いや、小学生でもスレたのはいますし。

今回はどんなワケアリなのか、はたしてみどりちゃんは人間なのか否か。期待しています。

#691[2011/11/26 11:15]  あかね  URL 

Re: 今度はサードゥ

あかねさん、

すみません! これ、<R-18>表示を忘れておりました!!!
他サイトで『官能』で出店…いや掲載したので、どうしても必要で(?)盛り込んであります。

ジャンルが実はよく分からなくて、これは、R指定入れる必要のない内容なんですが、当時のfateが官能作家だったんで、入れざるを得なかったというのか。
描き直してR指定取れば良かったんですが、余力がなくてそのままになっております(^^;

そうですかぁ。
fateは読めない世界たくさんありますよ。
純粋な男の妄想的官能もそうですし、人間のドロドロした心情を綴る負の人間ドラマ、それから(これは不快ではなくて、泣くのが疲れるので)戦争もの等のすんごく悲しいやつ。それから、言うに及ばず、あまりにもつまんないやつ。つまんない、の評価もfate独特ですので、他の方が面白い、と感じているモノも含まれると思います。要するに好きなモノしか読めません。(当たり前だ(--;)

でも、あかねさんがご不快でないと知って安心しました(^^)

これR指定入れときます。
失礼いたしました~

#695[2011/11/26 15:16]  fate  URL 














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