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Stories of fate


サードゥ ~修行者・遊行者~(R-18)

サードゥ 2

 母の同室だった人々に最後に挨拶をして、帰ろうと廊下に出たとき、ふと、開け放たれた扉の向こうの病室に、その少女が身体を起こしてぼんやりと窓を見ている姿が見えた。

 どこで会ったんだっけ?と思いを巡らしていると、その子は視線に気付いたのか、ゆっくりとこちらを向き、その子と目が合った。

 虚ろで、何も写ってないようなぼんやりとした表情で、彼女は俺をじっと見つめる。そこへ、看護師が通りかかり、「あら!」と声をあげた。

「珍しい。この子が、誰かをじっと見るなんて。御影さんを気に入ったのかしら。」

 その言葉を聞いた途端、俺は思わず言っていた。

「俺、この子を引き取りますよ。」
「えっ?」

 看護師は驚いて俺を見た。




 彼女の治療費・入院費を立て替え、もし、この子の家族が現れたら俺の住所を伝えて欲しいと頼み、俺は即日その子を連れ帰った。

 夏の初めのことだった。

 父が逝ったのも、こういう季節だったと思い出す。年は離れていたが、仲の良い夫婦だったと記憶している。死ぬ時期も一緒か・・・と俺は少し感慨深く思う。

 父が逝って、もう20年近くになる。俺も今年遂に30歳を越えた。
 この子の場合、記憶喪失の度合いが重かった。
 自分が誰なのか分からない、程度ではない。

 生まれてからそれまでの記憶の一切がないのだ。つまり、言葉も話せないし、日常の生活に関することが綺麗に消え去っていて、一人では何も出来ない。生活できないのだ。

 一ヶ月の入院の間に、食事と排泄だけは出来るようになった。着替えもなんとかこなす。しかし、病院ではそれ以上の生活感がないので、それ以降のことが進まないのだ。どこか然るべき施設にでも入所させるしかないかと考えていたところだった病院側は、俺の申し出にむしろ喜んでくれた。

 母の入院が長かったこともあり、院長や看護師一人ひとりともかなり仲良くなっていた俺は、あっさり信用されて、その子を託されたのだ。

 純然たる善意のみでそうしたわけではもちろんなくて、俺が男としてその子に興味を抱いたことは、薄々彼らにも分かっていただろうが、正直、病院側では彼女を本当に持て余していたのだろう。
 



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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