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Stories of fate


月の軌跡(R-18)

月の軌跡 (余命宣告) 66

 それから数日、なかなか起き上がることが出来ず、澪の状態は一進一退を繰り返していた。

 すっかり仕事を休んで、彼女に付き添おうかとも考えたが、それでは澪に不審を抱かせてしまう。彼女は自分の状態を知らないはずなのだ。

 柊は、半日だけ仕事をこなし、その間、澪の母が彼女に付いていてくれる。

 澪の笑顔は弱々しく、彼女の前では笑っていても、一歩病室を出ると、柊は身体が震えてくるのを止められなかった。

 明確に、彼女の命の炎は明滅を繰り返しているように感じられた。
 いつ、それが消えたままになってしまうか分からない恐怖。



  
 一週間が過ぎる頃、彼が仕事を終えて病院に向かう途中、ルカの姿を見かけた。

 今となっては、もう彼女に対して何の感情も沸かなかったが、一時期、彼女を恨みそうになって柊は苦しんだ。

 初めから澪に彼女達を引き合わせたりしなければ良かったのだろうか、と柊は絶望的な思いで考えたりもした。

 しかし、哲也が学校帰りにたまに寄ってくれて、澪の好きな搾りたての果物の生ジュースを差し入れてくれることが、澪にとっては楽しみの時間になっているようで、彼女は世間というものに怯えながらも、それでもつながっていたい思いがあるのだろう、と思われた。その心が悲しかった。

 人は、人と関わり合わずには生きていけないのだ。

 そういう、すれ違うだけの、だけど温かくも厳しい近所付き合いや、友人としての労わり、柊には与えてやれないものの大きさに、彼は愕然とする。

 彼にはどうすることも出来ないことだった。
 そんなある日、思いもかけないことが起こった。

 週末になって、澪のクラスメイトが、大勢で見舞いに訪れてくれたのだ。それには柊よりも澪が驚いていた。その中には、菜穂子もいた。彼女は、柊と既に知り合いになっていることに嬉しそうで、ちょっと得意気にお見舞いの品を柊に手渡したりと、彼が一瞬ひやりとするような言動もあったりしたが、澪は、そんなことも気にならないくらい、クラスメイトの賑やかさに喜んでいるようだった。

 先生から、と宿題のプリントや、見舞いの花束を受け取って、澪はそれまで青白かった頬がほんのり上気して色付いているのが柊には分かった。彼女が、心から嬉しいのだということが。

 柊は、人数分のおやつを用意してクラスメイト達をもてなし、勝手な話を始めてくすくす盛り上がっている彼らをにこにこ見つめる澪を、心から安堵して眺めた。

 30分ほどで彼らは賑やかに帰っていき、入院が長引くようだったら、また来るね、と去って行った。

「良い子たちだね。」

 柊が言うと、澪はもらった花束を抱きしめたまま頷いた。

「疲れただろ?少し休んだら?」
「大丈夫。」

 澪の頬はまだほんのり桃色にほてっていた。



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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