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Stories of fate


月の軌跡(R-18)

月の軌跡 (現れた闇) 62

 それからしばらく、ルカも顔を出さなかったし、多田と顔を合わせることもなく数日が過ぎ、澪は大分落ち着いてきた。 

 月に二度ほど、澪はルカや哲也のために食事を準備して二人を招待していたのだが、その日、澪はなんだかルカを呼ぶことを躊躇っているようだった。

「別に義務じゃないんだから、やめたって構わないんだよ。哲也くんだけ呼んでも良いわけだし。」

 だけど、澪は首を振る。

「そんなことをしたら、哲也さんも気にします。」
「じゃ、今回はやめたって良いよ。」

 澪はしばらく考えていたが、やはり首を振った。

「でも、食べていただきたいのは同じなんです。お呼びしていただけますか?」

 澪は、そう言うと、決心がついたように途中だった料理を猛然と再開する。作り始めてしまえば、もう余計なことは考えないようだ。全感覚を手元に集中し出した澪の後ろ姿を見て、柊は微笑ましいと思うと同時に、少し不安になる。それは、ある種、予感のようなものだったのかもしれない。

 声を掛けに行くと、哲也はいつものように大喜びだったが、ルカは、呼び鈴を鳴らしてもしばらく顔を出さなかった。しばらく待ってようやく扉を開けた彼女は、柊の顔を見て、ちょっと躊躇った様子を見せた。

「・・・ごめんなさい、今日は、遠慮しとくわ。」
「どうして?体調でも悪いの?」

 柊は何気なさを装って聞く。しかし、彼はルカの表情を見た瞬間、どこか、やっぱり、と思ってしまった。

「・・・そうじゃないけど・・・」

 ルカはもう柊の顔を見なかった。

「多田さんに何か言われた?」

 ルカははっと彼を見上げた。そして、何かおぞましいものを見るような視線を一瞬柊に向け、そしてすぐに視線をそらした。

「・・・いえ、なんでも。」
「そう。・・・じゃ、また今度にでも。」
「・・・あ、あのっ」

 帰り掛けた柊に、ルカは言う。

「本当なの?」
「何が?」
「澪さんは、・・・以前、誘拐されたことがあるって・・・。」

 柊は、何も答えない。その沈黙をルカは肯定と取ったようだ。

「そして、・・・随分長い間、監禁されて、解放されたときには・・・お腹に子どもが・・・。しかも、犯人はまだ捕まっていないって?」
「それから?」

 俯いたまま、彼女らしくない、呟くようなぼそぼそとした口調でルカは言いよどむ。

「ルカさん・・・。」

 柊は、ちょっと息をついた。

「他人の過去をそんな風に誰彼構わず話す人間の人格の方を俺は疑うね。」

 ルカはそれを聞いてきっと柊の顔を見据えた。

「犯人は、病院に恨みを持っていた人間だって言うじゃない。京島さん、あなたも妹さんを病気で亡くして病院を逆恨みしてたことがあるって聞いたわ。・・・犯人って、あなたじゃないの?信じられない!澪さんの気持ちが私には分からない!」

 バタン!と音を立てて扉は閉じられた。入れ違いに、支度を整えて部屋から出てきた哲也は、ルカの声に驚いた様子で、どうしたんですか?と目を丸くする。

「哲也くん。」

 柊は、ため息をついた。ここで、二人とも来なかったら澪が悲しむだろうと彼は思った。それで、人の好い哲也に、柊は懇願するように言った。

「ごめん、後で何もかも話すから、今夜だけ、何も聞かずに・・・何もなかった振りして、食事に来てくれるかな?」

 哲也は、一瞬、驚いたように柊を見つめたが、すぐににこっと頷いた。

「良いですよ。いつも、お世話になってますから。」



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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