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Stories of fate


月の軌跡(R-18)

月の軌跡 (現れた闇) 61

 柊は、彼が誰なのか、澪に詳しく聞こうとはしなかった。それが彼女の傷口を広げる行為であろうことは分かっていたし、いずれ、澪が会いたくない人物だということだけは明らかだ。

 相手が誰か、ということも去ることながら、今後どうするかの方が重要だった。
 澪が気付いたということは、相手も澪を自分が知っている人物であると確信を抱いたはずである。

 一体、何の目的で彼女の前に現れたのか・・・。

 翌日、柊は学校は休んだら?と言ったのだが、彼女は、大丈夫です、と微笑む。一人部屋にいるより、周りにクラスメイトがいてくれた方が、確かに安心かもしれない、と柊は彼女をいつもの通り学校へ送る。

 仕事場へ向かいながら、柊はルカに連絡を取ってみようと思い直す。あの後、多田がルカに何かを話した可能性もある。

 しかし、一旦アパートに戻ってみると、ルカはもう出勤した後で、多田ももちろん、もう部屋にはいなかった。

 諦めて出直そうと思ったとき、哲也に会った。彼はその日の講義が午後からだったので、ゆっくりと図書館に寄ってから大学に向かうところだったのだ。

「あ、京島さん。おはようございます!」

 哲也は、二階から降りてきた柊に声を掛ける。

「ああ、おはよう。哲也くん、これから大学?」
「そうです。今日はゆっくりの仕事ですか?奥さんは?」
「うん、もう送って行った。ちょっとルカさんに用を思い出して戻ってみたけど、もう出勤しちゃってたね。」

 すると、哲也は不意に眉をひそめた。

「ルカさん・・・、最近、変な男に引っ掛かってるんですよね。」
「・・・変な男?」

 哲也は、二階の方向に視線をやって頷く。

「ここの二階の住人なんですが、なんか、僕、好きになれないなあ・・・。ルカさんは、すごく褒めるんだけど、なんか、得体の知れない男で。」
「ああ・・・多田さんっていう医者?」

 見立ては自分と近いなあ、と苦笑しながら柊は言った。哲也は扉に鍵をすると柊と一緒に駐車場に向かって歩き始める。

「知ってるんですか?あれ?そういえば、京島さん、今、二階の誰かを訪ねて来たんですか?」
「その、多田さんを訪ねたんだけど、もう出かけた後だったよ。」
「ああ、彼はすごく不規則な仕事みたいで、数日帰って来なかったり、っていうのがしょっちゅうみたいですよ。ルカさんから聞きましたけど。」
「・・・医者だから、当直とかあるんだろうね。哲也くん、ルカさんから彼について、他に何か聞いてない?」

 柊は自分の車の横まで来て、立ち止まった。そうですねえ・・と言いかける哲也に、柊は思いついて提案する。

「良かったら、大学まで乗せてあげるから、ちょっと話を聞かせてくれないかな?」
「え?本当ですか?じゃ、お言葉に甘えて。じゃあ、図書館までお願いします。」

 車に乗り込んで、哲也は話し始めた。

「多田って男は、離婚歴があるみたいですよ。ずっと若い頃に結婚してて、けっこうすぐに別れてしまったみたいです。別に僕もそんなことはどうでも良いんですけど、なんか、原因がDVっぽいんですよね。ルカさんはそんなことないって否定するんですけど。」
「・・・って、その話はどこから聞いたの?」
「情報はすべてルカさんからですけど、結局、ルカさんは、多田さんから聞いた話を何もかも自分に都合よく解釈しているんですよ。だって、家庭裁判所が調停に入って、それで離婚が成立したとか、子どももいないのに相手にお金を大分払い続けているみたいだし、それに、どうも、奥さんは精神科に入院したらしいんですよ。」
「ふうん・・・。」
「僕、その辺の開業医しか知らないけど、大学病院の先生ともなると、なんか、別世界の人間みたいですよね。近寄り難いっていうのか。ルカさんはそういうネームヴァリューに弱いから舞い上がっちゃっているみたいですけど、・・・まあ、一般庶民のヒガミって言われればそうかもしれないけど、肩書きで人間、評価できないですよね。」
「それは確かにそうだと思うね。ちなみに、彼はどこの大学病院なんだって?」
「ええと・・・聞いた気がしますが、すみません、興味なくて覚えてないです。でも、医者の一家で、だいたい、親も兄弟も従兄弟も皆医者とかそういう関係者だって言ってましたよ。親戚に大学教授もいるとか。」
「その親戚って、名前とか分かる?」
「そこまでは・・・。でも、京島さん、なんでそんなこと聞くんですか?多田さんと何かありました?」
「うん・・・、ちょっとね。」

 柊は、澪のことを説明する気になれずに曖昧に言葉を濁す。

「僕、ルカさんのこと、好きなのかなあ・・・。」

 哲也は、前をぼんやりと見つめて呟く。

「え?そりゃ・・・。だから、気になるんじゃないのかい?」
「そうなんですかね?でも、じゃあ、彼女と付き合いたいのか?って聞かれると、う~ん・・・って悩むんですよね。だって、ルカさんってあの通り、底抜けに明るくて賑やかでしょう?たまに会って話すのは構わないけど、ずっと一緒にいたら疲れますよ。」

 哲也の言葉に柊は笑った。

「それに、だぶん、なんか違うんですよ。気になるっていうより、心配、に近いですね。僕、姉がいるんですけど、たぶん、ルカさんって姉に似ているんですよ。危なっかしいところとか。」

 図書館の前で哲也を下ろして、柊は彼との会話を反芻する。

 離婚歴があって、しかも、相手の女性は精神を病んで別れた。医者の一家で、親戚中、皆、医療関係者。澪の父親が大学教授であることを考えると、そこに接点は必ずあるだろうと思えた。多田は間違いなく澪を知っていたのだ。知っていて、何のために澪に近づいてきたのだろうか?
 



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