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Stories of fate


月の軌跡(R-18)

月の軌跡 (浮かび上がる悪夢) 60

 何もかもが曖昧だった時期。

 生きることさえ諦めようとして、心を閉ざしていた時期のことを、澪はもうおぼろげながらしか覚えていない。元夫の顔すら、彼女は思い出せなかった。だから、本当にそうなのか分からない。

 だけど、多田俊彦の顔は、どこかで見たことがあった。

 いつか、あの家に訪ねてきた親戚、だったような気がする。元夫の、従兄、或いは叔父、そんな近しい親戚の誰か。

 覚えているのは、あの視線。
 自分を舐めるように見ていた、絡みつくような視線、だった。

 それ以上最悪のことなど他に思いつかない時期だったから、澪はそのときはさほど意に介さなかった。何が起ころうと心に変化が起こるとは思えなかった。失うものなど、とっくになかったのだ。

 しかし、今、やっと手に入れた‘幸せ’だと思える時間の温かさ。
 誰かの存在に癒され、守られ、そして愛する相手を支えられる喜びを、澪はやっと知ったばかりなのだ。
 危ういバランスで、ようやく保っているガラスの城のような、きらきらと透明で、そして脆いこの宝物の時間。壊されたら・・・生きていけない、と誰よりも澪自身の、その身体が知っている。

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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[恋愛:エロス:官能小説

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