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Stories of fate


月の軌跡(R-18)

月の軌跡 (父と娘) 55

 週明けの月曜日。

 学校へ連絡を入れて、柊は澪を連れていく。お互いの言い分をお互いにしっかり言い合って、妥協点を探ろうと思ったのだ。

 しかし、学校側は公立高校というせいもあるのか、まったく融通が利かない。規則ですから、の一点張りなのだ。

 いたたまれなくなった澪が、もう良いです、と叫びそうになったとき、校長室をノックする音がした。

「どうぞ。」

 校長は、もう平行線の議論を打ち切りたくて、ほっとしたようにノックに答える。

「失礼します・・・。」

 ところが、事務員が連れてきたのは、なんと、澪の父親だった。

「・・・お父さま・・・。」

 澪も、そして柊も唖然とするほど驚いた。
 澪の父親は、曲がりなりにも医学部の教授であり、名士である。名刺を出されて挨拶され、さすがに校長も少しかしこまって挨拶を返す。

「娘が、こちらの学校に大変ご迷惑をお掛けしているそうで。」

 相良は校長を真っ直ぐに見て言う。
 澪も柊も、相良の厳しい表情に、彼が何を言い出すのか不安になった。もともと二人のことに反対だった彼だ。ここで、澪を家に引き取ります、と宣言されるのかもしれないと二人は覚悟した。

 校長は、今までとは打って変わった態度で、彼の話を聞く態勢に入る。彼もまた、澪の父親が適切な判断をしてくれるもの思ったようだ。

「しかし、ご無理は承知でお願いにあがりました。」

 相良は澪と、その隣に座る柊をちらりと見て言葉を続ける。

「私は父として、そして医者として、京島くんに娘を託しました。妻からお聞きになったかとは思いますが、娘は一時期植物状態に陥りました。その後遺症は思いのほか娘の身体も、そして精神も蝕み、あのままでは正常な日常生活を送ることも絶望的な状況でした。それを、ここまで回復させてくれたのは、京島くんの力に寄るものです。」

 柊は驚いて彼の横顔を見つめた。

「今、娘がその支えを失ったら、今度こそ、私共夫婦は娘を永遠に亡くしてしまうことになりかねません。・・・そういう差し迫った状況であることを、まず、お伝えしておきます。そして、その辺をご考慮いただいて、・・・校長先生にはご理解いただけることと思いますが。」
「しかし・・・」

 校長は不意を突かれた表情になって言葉を濁す。

「やはり、こういうことは学校としましては・・・」
「では―」

 相良は、ゆっくりと静かな声で言った。

「二人が、‘同棲’という形をとっていることが問題だとおっしゃる。」
「まあ、そういう・・・」
「でしたら、二人を早々に入籍させます。それで、問題はなくなりますね。」
「・・・えっ???」

 はあ?と校長が怪訝そうな表情で相良を見つめ、澪と柊は同時に驚きの声をあげた。




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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~


「異形を愛する人の心には‘神’が宿る…」って素敵な概念ですね。
「鬼」というのは描き方ひとつで神秘的にもなりうる。
私も木原敏江さんの漫画で鬼の登場する物語を読んだことがありますが、とても切ないお話でした。

きっと澪は「自分にとっての究極幸せ」を手にいれてしまったのではないか?と感じました。もちろんそれは、「ただ柊のそばにいること」。たとえ学校を退学になってしまってもいい。柊のそばにいることができるならば、ほかには何も望まない…。
そんな無欲さが澪を更に生命力の薄い、儚い娘にさせているような…。

おおぉぉ!
お父さん、大きく出ましたね~。いきなり入籍ですか!!
お母さんに何か諭されたのかな?
#594[2011/11/20 01:38]  西幻響子  URL  [Edit]

西幻響子さまへ

西幻響子さん、いつもコメントありがとうございます。

展開が急激過ぎてびっくりの連続と思いますが、これは結局、丁寧に描かずにさっさと進めてしまったfateの責任です(^^;
すみません。
これだけの分量のエピソードがあれば、もっと世界は広がったはずなのに、ちょっともったいないことをしました。
昼ドラみたいですな。

ありがとうございます。
異形と神。
これは、なんとなくいつでも頭の片隅にあるテーマのような気がします。
‘闇’を抱くもの=異形、であり、‘ひかり’を抱くものが、fateにとっては神のような感じだろうか。
だけど、対極に在りながら、それはお互いに一番近い、或いは何か共通のモノを抱いている。
共鳴するものがある。
ああ、今、文章にして「そういうことか」と驚いております。

ショートショートを書く他作家さまの作品にいつもぎょっとさせられていますが、相手を食べてしまうことが究極の愛、みたいなホラーな作品がありましたが、何かそれに近いもの。
fateは‘究極の愛’の形を模索しているのだろうか。

そうなってくると、‘愛’と‘生’と‘死’にあまり区別の意味がなくなってきて、ヤバい。
そこに堕ち込まない程度に人間である最低限を保たないと、他の方に理解出来ない世界になってしまう(^^:

澪ちゃんは今後、更に試練がありますが、そろそろ終盤へ向かいます。


#596[2011/11/20 06:39]  fate  URL 














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