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Stories of fate


月の軌跡(R-18)

月の軌跡 (嫉妬の行方) 53

 翌日から、澪は新たな喜びを知る。

 澪の手料理を食べてくれたルカと哲也が、外で見かけるとにこにこと挨拶をしてくれるようになり、そして、ルカと哲也もお互いがよく話すようになったと喜んでくれたのだ。

 また、今度は二人のために何かを作りたい、と澪は意欲に燃えた。

 その週は、自宅謹慎のような形で澪は家に閉じこもっているだけだったので、楽しみにつながる何かを見つけたことはこの上ない喜びだった。

「俺の収入は、君の食材だけで消えそうだね。」

 柊は笑い、それでも、生き生きと頬を染める澪を嬉しそうに見つめる彼は、澪が列挙した食材を丁寧に選んで買ってきてくれる。

 澪はもう、高校へ復学することも、資格を得ることも、どうでも良かった。
 自分の料理を喜んで食べてくれる人がいる。それは、思いのほか、彼女の全身を温め、生きる拠り所になった。
 人は、誰かに必要とされて初めて生きる意味を見出すのだろう。
 



「澪ちゃん、いつまでキッチンで遊んでるのさ?」

 料理の下ごしらえをして、いつまでも肉や魚をいじっている澪に、もう寝る支度を整えてしまった柊が声を掛ける。

「あ・・・、ごめんなさい。もう、終わります。」

 澪ははっとして振り返る。
 知らぬ間に時間が経っていたようだ。あまり熱心に根を詰めすぎて、彼女は一瞬くらりとする。

「澪ちゃん、今は何をしても楽しい時期なんだろうけど、体調と相談してくれよ?」
「・・・すみません。」

 不意に後ろで支えてくれた柊に、澪は手を醤油だらけにしたまま謝る。

「俺だって、いろいろ我慢してるんだから。」

 え?と彼を見上げた途端、不意に唇をふさがれ、澪は瞬間、固まってしまった。

「早くお風呂に入っておいでよ。」

 背後からそっと抱きしめられ、澪は知らずにかあっと頬を染める。

 仕事に没頭すると何も見えなくなる瞬間を知っている柊は、澪に対しても、夢中になっていることに対する理解があって、彼女はのびのびとそれを楽しむことが出来る。これが、家にいたらそうはいかなかっただろう。レールに添った生き方を求められ、堅実で確実なものしか認められない親の愛にがんじがらめになり、苦しくて息も出来なくなっていただろうか。



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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