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Stories of fate


月の軌跡(R-18)

月の軌跡 (新しい一歩) 45

 大分、体力は回復し、澪は長い時間でなければ、立ち上がっての家事も出来るようになり、自分のことは自分で出来る程度までは進んだ。

 外出は無理だったが、部屋の中で過ごすことに段々支障はなくなり、顔色も目に見えて良くなってきた。

「フユキ・・・。」

 冬の空気が緩み始め、どこか光にも温かさを感じる季節になってきた。
 編入を申し込んだ高校から試験日程の通知が届いた。

「まあ、そう呼ばせた俺が悪いんだけど、もう、そっちが定着してしまったようだね。」

 柊は、どんなに仕事が忙しくなっても、夕食は必ず戻って一緒に取っていた。その上で、どうしても間に合わないときには、作業場に戻って夜中まで仕事を続けてくるのだ。その夜も、出かけそうな素振りの彼の背中に、澪はちょっと心細そうに声を掛けた。

「あ、ごめんなさい、柊・・・。」
「いや、良いけど。どうした?一人になるのが怖い?」

 柊は、ちょっと意地悪に微笑んでみせる。二人は夕食が終わり、少しくつろいでいた。柊はソファに寄りかかり、澪はその横にそっと腰かけている。仕事に戻るときには、ペットボトルの飲料を持って出かける彼が、その夜も、傍らに飲み物を用意していたのだ。

「えっ?・・・あの・・・。」

 少しどぎまぎして、澪は俯く。

「はい・・・。」

 意外に素直に頷かれ、柊は不意に甘い気持ちになる。

「・・・抱いて、良い?」

 澪の返事を待たずに、柊はぐい、とソファの上の彼女の腕をつかんで引きずり下ろす。

「あ・・・っ、あのっ・・・」

 よろける彼女の細い身体を抱きとめて、柊は澪の頭を胸に抱いた。もう、ずっと二人は身体をつないでいなかった。澪の体力が、とても、そんなことに耐えられるほど回復していなかったのだ。

 いや、今でもまだ澪は触れたら壊れてしまいそうだった。

「はい、抱いてください。」

 しかし、澪は、柊の胸に抱かれたまま、そっと言った。

「俺とセックスしたかった?」

 柊が不敵な笑顔で見下ろすと、澪は、真顔で彼を見上げて頷いた。澪は、いつからか、そういう表情をするようになった。媚びるでも、誘うでもなく、ただ、求める、とでもいうような熱く揺れる瞳で。

「君、そういう目で、他の男を見たらダメだよ?」
「・・・そういう、目・・・?」

 ふと、澪は、ハワイで出会った男を思い出した。




‘そんな目をして町をいつまでもウロついていると、性質の悪い男に捕まって、抜けるに抜けられない世界に引きずり込まれるのが落ちだ。’




 そのときになって、初めて澪はあの男の言葉をすべて理解した。
 



‘その男は、あんたを愛していたんだよ。’




 そう言ってくれた男の目は、どこか皮肉だったが、ひどく優しく澪を見つめていた。憐れむような、どこか遠い幻に想いを馳せているかのような。

「・・・大丈夫です。今は、貴方がここにいますから。」
 



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