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Stories of fate


ローズガーデン(R-18)

ローズガーデン (帰宅) 18

「いやあぁぁぁっ、マリ・・・マリ・・・ッ!」

 万理男が登校したあと、現れた真佐人の姿に、優奈は悲鳴をあげて、部屋の隅に逃げた。

「うるさい、何もしないよ、優奈。約束通りお前を家に帰してやるだけだ。騒ぐな。」

 迷惑そうな表情を浮かべ、真佐人は本当に彼女には近づかず、上着を着ろ、と命令しただけだった。

「・・・どうして・・・」
「どうして?そういう契約だっただろ?」

 優奈は微かに首を振る。

「マリ・・・マリは・・・」
「あいつは、お前が出て行くところを見たくないと言っていた。分かるか?あいつも、お前も悲しい思いをする必要はないだろ。あいつがいない間に、お前は家に帰るんだよ。」

 優奈は、驚いて目を見開いた。

「マリが・・・?」
「そうだよ。」

 優奈の瞳には涙がにじんできた。

 万理男と離れたくなかった。外から帰ってきた彼が、どこかほっとしたようにくつろいだ表情をして優奈を見つめる瞳の優しさを、そのときの胸に広がる喜びを彼女は忘れられなかった。

 抱きしめてくれる腕の温かさを。
 一度だけディズニーランドで過ごした夢のような一日のきらめきを。

「もう一度、マリに会いたかったら、お前が家に戻って親を説得してきな。お前は未成年だ。親が認めないと‘結婚’出来ないんだよ、分かるだろ?」

 真佐人の言葉はすうっと優奈の心に入り込んだ。

 怖くて怖くて、ただひたすら恐れていた相手だったのに、今、彼の瞳に狂気はなく、すとんとした静けさだけが宿っていた。まるで、万理男と話しているときのように、優奈はこっくりと頷いた。

「一度、家に帰れ。」

 優奈は震える手で、それでも万理男が買ってくれたコートを羽織った。ふと最後に部屋を見回したとき、コーヒーメーカーの脇に置かれたディズニーで彼とお揃いで買ったコーヒーカップに目が留まった。

「マリ・・・」

 優奈はそれを一旦手に取り、再び、同じ場所に戻してじっと見つめる。大きさが僅かに違う二つ並んだペアのカップ。持ち出さなかったのは、再度、ここでこれを使う日を夢みたのかも知れない。

「行くぞ。」

 突然、現れた少女の姿に目を留めた使用人は驚いた風だったが、特に何も言わなかった。双子の友人の男の子の出入りは激しく見慣れていたが、女の子の姿は珍しかった。だが、その程度の認識だった。

 タクシーに二人で乗り込み、優奈の家の目と鼻の先まで、真佐人は彼女を送ってそこで下ろした。

 何も言葉を交わさず、優奈は、一度も真佐人のことは見ずにタクシーを下り、そして家に向かった。少なくとも、その足取りはしっかりしていた。




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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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