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Stories of fate


ローズガーデン(R-18)

ローズガーデン (狂気の行方) 16

 つわりが軽いのか、生理が遅れているだけなのかはっきりはしなかったが、万理男は、もしかして妊娠しているかもしれない優奈の身体をいたわるようになった。激しいセックスは子どもを流してしまう可能性があったのだ。果たして、それが親切なのか実は疑問ではあったが、これ以上、この子に辛い思いをさせる必要はないと思えた。 
 他に選択の余地がない故の錯覚の恋愛には違いないが、優奈が自分に‘恋’のような感情を抱いていることは分かっていた。それに酔わせてやるだけの優しさが彼にはある。彼自身は優奈に対して特別、何の感情もないが、それは悪い感情もないということだ。  

 他人に興味のない彼も、やはり不快な人間はいた。

 どういう子が不快なのか?と聞かれると明確な規定はなかったが、その子の持つ空気の色で、彼は耐えられないタイプがいた。他人を出し抜こうとしたり、友達を平気で裏切るような子だ。或いは、相手に寄って180度態度を変える人間。それから、多少ならともかく、頭の悪い子を彼は嫌う。成績の善し悪しではない。あまりにも非常識で他人の痛みの分からない言動を彼は嫌った。

 話していてテンポが良く、会話の楽しい子とはむしろ良い友人として付き合える。しかし、女特有の他人の悪口や愚痴、不平・不満を延々と聞かされることには耐えられなかった。

 優奈は、それほど頭は切れない。勉強の話題にはあまりついてこられない。だけど、例えばニュースや世間一般の話題について意見を求めると、一生懸命考えて自分なりの答えを探そうとする。そこに悪意的、偏見的な意見はなく、考え自体は素直だった。

 そして、何より優奈はまっとうな愛情の下で素直に育てられている。歪んだものを持っていないし、性質が清らかだった。怯えながら、泣きながら、それでも彼女はこの状況を受け入れ、ただ耐えている。そこに僅かな楽しみや喜びを探そうとしている。そういうところがいじらしかった。

 それは、自分になついた犬や猫を可愛いと思うのに似ていた。

 更に、優奈を抱くことは、万理男にとっても精神的な安定をもたらすことでもあった。人の肌に触れること、生殖という本能の欲望を満たすこと。

 週に何度か、前戯をゆっくり丁寧にして、挿入は出来るだけ柔らかく優しく。優奈が満足する程度の優しいセックスを。相手を悦ばすことの意味を、万理男も優奈とのセックスで初めて学んだ。こんな風に一人の女だけを相手にしたことは彼にはなかった。

 この閉じられた空間で、優奈は、優しく抱いてくれる万理男を、自分のことを気に掛けてくれる男を、愛してくれる人と思い込んでその腕に溺れていった。優奈は、万理男のそばを離れたくなかった。家に帰りたいと、そう願い続けることをやめてしまっていた。

 年が明け、もう3学期が始まっていた。

「マリ・・・、マリ、捨てないで。・・・私を捨てないで。」

 不意に、優奈はそう言って万理男にすがりつくことがある。彼女は、万理男の勉強の邪魔は決してしなかった。だから、今日はここまでにしておこうか・・・、と万理男が手を止めるまで、どんなに寂しくても、或いは訳の分からない不安に取り付かれても、たいてい必死に待っている。

「どうしたんだい?」

 万理男は、いつも不思議そうに優奈の顔を覗き込む。ベッドにそっと入ってきた彼の胸に、優奈は顔をうずめる。何か見えない手から逃れるように、震える小さな肩を抱き寄せて、万理男は、大丈夫だよ、とささやく。

「兄が怖いの?・・・大丈夫だよ、君のことは守れるから。」

 優奈は小さく首を振る。

 違う・・・。いや、あの兄も確かに怖いが、そうじゃない。何か、‘別れ’の気配を否応なしに感じるのだ。

「マリ・・・、私は・・・。」

 あなたが、好き。
 その切ない熱い瞳に、万理男は憐れみをおぼえる。

「優奈ちゃん、君は、選択の余地がない状態で今いるから、そう思い込んでいるだけだよ。」

 優奈は必死に首を振る。

「アンネの日記にもあったろ?一緒に狭い空間に暮らす二つの家族。その子ども達。アンネが恋だと思っていた想いは・・・。」
「違う。私は・・・っ」
「それに、君の場合はもっと条件が悪いよ。俺と兄を比べながらここにいるんだ。兄から逃れるためには俺を好きだと思い込んでいた方が楽なんだよ。」

 優奈は傷ついたような顔で万理男を見上げた。その瞳には涙が光る。

「マリは・・・私が嫌い?」
「違う。好きか嫌いかと言ったら、間違いなく好きだろう。君は、良い子だ。そして、俺はそれは他のいかなる子とも比べて考えられることだけど、君の場合は違うだろう?」

 優奈は後半の言葉は聞いていなかった。万理男が、自分を好きだと言った言葉だけを心に受け取った。

「それなら、良い。」

 万理男は、ふと不安をおぼえる。このまま優奈をここに閉じ込めておいたら、この子は、マトモな世界に戻れなくなるのではないかと。恋だと思い込んでいた幻想に気付いたとき、その落差に精神に異常を来たしてしまうのではないかと。

 一刻も早く優奈を家に帰さなければ、と万理男は思う。これ以上、現実とのズレが大きく開いてしまう前に。優奈のウエストまわり、下腹部のふくらみは日に日に目立ってきている。もうすぐ、4ヶ月に差し掛かるところだろうと万理男は予測する。

 もう、帰すべきだ。





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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~


う~ん、今のところ、かなり異様な空気が流れてますな。
真佐人の凶暴な部分より、万理男の兄に従順なところ(それも、兄の存在に脅えているわけではなくて、兄の言うことをきくのが「当然」のことになっている、という)のほうに不穏な、倒錯めいた感じを受けます。そして見知らぬ女の子に自分の子をはらませる、ということに嫌悪感を覚えない感覚。それがちょっと恐い。

ほほう。
万理男の考える「不快な人間」は、意外に「まっとう」なのですねぇ。
正しい行いをする人間のほうが好き、ということか。
もしかして、自分のことを「まっとうじゃない」と思っているのかな?

うわーっやばいですね。ほんとに妊娠しちゃったらしい…。
そしてやはり優奈も澪と同じように自分を監禁している男を好きになってしまった。
でも万理男のほうの「好き」の感情はまだ軽いみたいですね。

前回のfateさんのコメ返、凄く嬉しかったです!ひしっ(←抱きついた
ありがとうございます ^^ またまた書く原動力になります。

それから少年犯罪のこと、西幻も同感であります。
親の育て方でそういう恐ろしい犯罪が起きる。
そして、恐怖の連鎖は続いていく。
最後の一人が子供を作らなくなるまで…。
#715[2011/11/28 03:05]  西幻響子  URL  [Edit]

西幻響子さまへ

西幻響子さん、

きゃあ~っ、西幻さんに抱きつかれちゃって、fate 他読者さんにコロされるわ~
(ウルサイ…(--; きっとココロは幸生くんだな?)

いやいやいや。こちらこそです。
伝えたいことを読みとっていただいたとき、そして、作品に込めた別の意味を読者さまに気付かせていただいたとき、おお! 描いてで良かった…(T-T)と、感無量になりますね、ほんと。
そういう意味で、西幻さんからいただくご感想は感動します!

ただ、これは! 正直、マトモな世界のマトモな方が、共感してはいけない世界です!
似たような‘闇’を少なからず認めてくださっている方からは比較的ご好評いただいておりますが、むしろ、fateはそれにびっくりしました。
いやいやいや、これを理解しちゃアカンでしょう…
と恐縮いたしましたが、fateよりかなり薄いですが、そういう世界を描かれたこともある作家さん達でしたので、そうか、許容の範囲なのだな、と納得させていただいたり。

この双子は対照的な性質を表現しますが、まったく同じ人間としての双子が『カーマ』でした。
双子ってなんで好きか?
一人の人間が二つの肉体を持った。その神秘が面白くて、もしかして、創りは同じなのに、表面化するモノが違ったら、‘光’と‘闇’に分かれるのだろうか??
などと。
それをやってみようとして挫折したのが、実は『双樹』でした。(この双子も軽いけど、そんな感じです)
あれは当時の筆力では到底描ききれなくて、…もしかして、今なら描けるかなぁ…。
でも、あれ、最後が最悪に悲しいことが分かっているから描きたくない…(--;

ああ、関係ないハナシに飛んでしまった。
その内、fateはリンク先と、勝手にお邪魔させていただいている他作家さまのブログを紹介する記事を、また(今度は、何人かまとめて…かな?)書かせていただきたいと思うのですが、西幻さんのブログも勝手に登場させてよろしいでしょうか?
もう、次回からは勝手に載せて、事後承諾にして、「ご不快な場合はご連絡いただければ削除します」で行こうかと…(^^;
わはは。






#717[2011/11/28 10:15]  fate  URL 














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