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Stories of fate


月の軌跡(R-18)

月の軌跡 (望まぬ婚姻) 32

 例えば、大きな仕事を請け、彼らの目に留まる成果をあげること。そんな風に、表側から何かを伝える方法を探そうとした。

 他の世界を認めない彼女の家族へ、それはほとんど意味のないことかも知れない。だけど、彼には、他に出来ることはない。誇れることはない。彼は仕事を愛していたし、自分の技術を誇りに思ってもいた。それに、賭けてみるしかないのだ。

 そのために、彼は、それまで以上に丁寧な仕事を心掛けた。
 自分の思った通りのデザインが出来ない場合や、素材の質に関して意見が食い違ったときなどは、注文主と衝突したこともあったが、それをぐっとこらえて、丁寧に詰める術も学んでいく。譲るべき箇所を模索する。そして、それまで一切しなかったこと。名刺やパンフレットのようなものを作って、自分の存在をアピールすることも、面倒がらずにやるようになった。

 そうして、彼は仕事に対する初めての試みを模索し始めた。
 そうやって、柊が澪との関係を正攻法で手に入れようとしていた間に、事態は急展開する。

 澪の両親は、娘の考えていることがまったくつかめなくなり、いつ、また何を仕出かすかと本気で恐れた。そして、それを封じるために、見合いも婚約もその過程をすっ飛ばして、両親二人で話し合い、相手を選定し、かいつまんだ事情を相手方に始めに説明した上で、結婚を決めてしまった。

 そして、どうしても高校に行きたいと泣く娘を、有無を言わさず強引に相手の家に嫁がせてしまったのだ。
個人病院を持っているわけではない相良は、娘の婿は、医者であれば良いという結論に達したのだろう。




 しばらく仕事に夢中になっていた柊は、澪の婚約が破談になったらしい、というところまでしか知らずにいた。
 そして、澪が高校を中退させられ、すでに他家に嫁いだあと、仕事絡みの人づてにその事実を知らされる。
 それを知って、柊は、茫然とすると同時に、一気に様々な思いが脳裏を交錯した。

 澪が、他の男に抱かれるという事実、そして、彼女を永遠に失うという現実。その絶望と怒りと、そして焦燥。澪に会いたかった。とにかく、一度会って彼女の顔を見たかった。今、彼女は何を思い、何を感じ、そして、何を望んでいるのか。

 会えずにいた時間が、様々な不安を映し出す。彼女への執着は、単に歪んだ心の現れだったのだろうか、というそれまで見ない振りをしてきた疑いの心。

 そして、自分があがいていることは何の意味も成さず、何にも繋がらないのかという自嘲にも似た思い。

「出会ったことが、そもそも間違いだったのか?・・・出会うはずなどなかった俺たちが。」

 偶然に出会ったあのとき、澪と、その家族にした仕打ちを思えば、今の結果は当然なのかもしれない。ある日突然、忽然と行方が分からなくなった娘を、両親がどれだけ心配し、彼女の身に降りかかった災難をどれだけ嘆いたか知れないのだ。

 澪を失うことは、その罰なのだろうか。
 そして、もう、彼女も諦めているのだろうか。すべてを運命として受け入れることに決めてしまったのだろうか。
 何もかもが曖昧になり、柊は苦悩する。

 そして、最後に彼女に会いたいと思う。
 会って、彼女の口から別れの言葉を聞きたいと。そうしないと、終われなかった。

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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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